『六軒島戦隊 うみねこセブン』BBS


「うみねこセブン」のBBSです。 企画打合せや、本編アップ、感想等、幅広くご使用下さい。

番外編 - アルブレード

2012/01/18 (Wed) 22:41:33


 ちょっと前に言った番外編投下します、今度のチャットの時にどうするか話したいと思いますが、とりあえずこのまま番外編投下用のスレに使えるように一記事分開けてから投下します。

 編集キー0079

雷鳴の轟き終えた朝に - KENM

2013/06/18 (Tue) 00:06:50


<font size=5>雷鳴の轟き終えた朝に</font>



「はい。はい。新郎の方も準備が終わったそうです。そろそろ式場へと移動して下さい」


新郎側の楽屋と連絡を取っていたスタッフから移動を促されて新婦である彼女はゆっくりと席を立って式場へと移動を開始する。

素早く動く事を全く考慮していないウェディングドレスの上にハイヒールまで履いていた今の彼女は実にゆったりとした足取りで一歩一歩と式場への歩を進める。

10mの間合いを一足飛びで詰められるほどの素早さを有する彼女にとってはあるまじき鈍重さ。

……だが、その遅さがまた今の彼女には心地良かった。

幼い頃から常に戦いに身を置き続けた彼女が今日この日、この時だけは唯の女の子で居られるのだと実感出来る証であったからだ。


凄絶なる雷撃魔法と紫電の剣技の数々によって誰ともなく畏敬の念を以って呼ばれ始めて定着した彼女の通り名。

凶(まが)つ雷……『凶雷のルーフィシス』。

数々の戦場でその勇名を馳せていた彼女は今日という日を境にきっと姿を見せなくなっていくのだろう。

………いや、正確には勇名を馳せるべき戦場こそが無くなっていくのだろう。

ミラージュ率いる新生ファントムとうみねこセブンとの最終決戦より既に十年以上が経った今、人間と幻想との戦いは小競り合いすらそうそう起こらないほどにまで落ち着き、安定期に入りつつあった。

だからこそ、彼女はようやくこの挙式を挙げるまでに至れたのだ。


好きな色ではあったが「自分のイメージに合わないのでは…」と控えていたピンク一色のウェディングドレスは今の自分には予想外にも良い感じで馴染んでいた。
胸元には幼少の頃から身に着けて幾度となくその身を護り続けてもらった愛用の蒼い宝石の【防護魔石(バリアクリスタル)】。
両手で握るウェディングブーケは『強敵』と書いて『親友』と読むのがぴったりな蒼髪ツインテが自分の髪飾りの一部をばらして造ってくれたお手製で、<s>「必ず自分に向かって投げろ」という念が込められた呪いの一品</s>実に感慨深い一品だ。


「よう、思った以上に良い女になってるなぁ。あの時の冗談、本気にしておくべきだったかな?」


背後から掛けられた声に振り向き彼女は驚く。
それは今日の挙式には招待していないはずのウィラード・H・ライトであったからだ。


「…なん…で?」

「愚問だな。こういうめでたい話ってのは誰ともなく伝達し合って思わぬところにまで届いちまうものなんだよ。礼拝堂は正規の招待客の数倍は居るだろうから今の内から覚悟しておくんだな」

「す、数倍も?何で…そんなに…」

「再びの愚問だな。お前達を祝福したいから、に決まっているだろう?」


意表を突かれてきょとんとしたルーフィシスをしたり顔で見つめるウィラード。
その一言は当然の事のようであって当然の事ではない。
そう、十数年前までは彼とも鎬を削り合うほど苛烈な敵対関係にあったのだから…。


「ルーフィシスさん、新郎がもう式場の入り口で待っているそうです!急いで下さい!」


スタッフの催促が入った事で見合っていたお互いの胸に去来していた過去の出来事が途切れて共に我に返る。
催促に応じて式場の入り口へと急ごうと振り向いたルーフィシスの背へとウィラードはもう一度だけ声を掛ける。


「幸せになれよ、ルーフィシス」


その言葉にルーフィシスもまたもう一度だけ振り返って言葉を返す。


「ええ、幸せになるわ」




6月の某日
前日の梅雨の雷雨が嘘の様に晴れ渡った朝

彼女は『6月の花嫁(ジューンブライド)』の一人として幸せになるべく嫁いだのだった。



fin

Re: 番外編 - アル

2012/12/13 (Thu) 22:26:50



普段であれば笑顔と笑いが溢れている遊園地が恐怖と悲鳴で溢れているのは突如として出現した紫色の服を纏った魔女のせいだった。
 黒く厚い雲が覆う空の下、観覧車のてっぺん辺りに浮かぶその魔女が左手に持つケーンを振り上げると彼女を包むかのように白い光のリングが現れた。 そしてリングは二つ、三つと数を増やす。
 「……ふ!」
 魔女がにやりと口元を歪めると線で構成されていると思われたリングは無数の光球の塊へと変化し、それらすべてが一気に解き放たれ四方八方へと飛び散った光弾は遊園地の施設に、通路にとあらゆる場所に着弾し爆ぜて閃光と爆音を響かせる。
 その第一撃では死者こそ出なかったものの爆発の衝撃で何人もの負傷者を出し、無事だった客達もパニック状態で悲鳴を上げながら逃げ惑う。 ファントムという人間の敵の出現は平和に慣れした日本人に危機感を植えつけはしたが、それでも実際に命の危機に直面し冷静ではいられない。
 「エヴァ・ベアトリーチェっ!!!!!」
 響き渡るその少女の声に魔女――エヴァが振り返ると、鮫をイメージしたような蒼いバトル・スーツの背に天使の白い羽を生やした人物が飛んで来るのが見え笑い出す。
 「きゃはははははっ! 来たわねうみねこブルー……いえ、グレーテルぅっ!!!!!」
 エヴァが再びケーンを振るうと数十本の赤いビームが放たれる、ビームは一旦拡散したように見えたがすぐにグレーテルをロックオンしたかのように彼女めがけてその軌道を変えた。 グレーテルは焦ることなく左方向に旋回しビームを回避した。
 「【天使の双刃(エンジェリック・ツインブレード)】っ!!!!!」
 両腕に白く輝く一対のブレードを出現させたグレーテルが急上昇し、直後に再び放たれた何十本という赤いビームが彼女のいた空間を通過した。
 「そんな数に任せた力押しの攻撃なんてっ!!!!」
 叫ぶグレーテルが両腕を広げると同時に背の羽が数度羽ばたき白い光の羽根を舞わせた、そしてエヴァめがけて急降下を開始する。 もちろんそれを黙って見ているエヴァではなく赤いビームのシャワーで迎撃行動に出るが、グレーテルは小刻みな動きで巧みにビームの隙間を縫いながら降下していく。
 「良く動くわねっ!!」
 グレーテルの方を向いたまま後退をかけて間合いをとるエヴァの両肩の辺りに小さな魔方陣が出現し、そこからソフトボール程の赤い光球がひとつづつ飛び出す。
 「当然っ!!!……っ!!!?」
 一旦左右へと飛んだ光球は大きく弧を描きグレーテルの背後から襲い掛かってきた、その間にもビームの弾幕は張られ続けている、グレーテルは光球の方がダメージが大きいと判断しビームの数発は被弾覚悟で回避行動をとった。 
 数発のビームが掠めながらも避け切った光球が背後でぶつかり合い大きな光芒を作った、直撃していればタダでは済まなかっただろう威力に思えてひやりとなり、これ以上は迂闊に近づけないと悟り後退する。
 「なんて火力……」
 「きゃははははははっ!! これがあたし、エヴァ・ベアトリーチェの実力なのよっ!!!!! 」
 「上等よっ……!!?」
 「弾幕はパワー!! いい言葉よねぇ~~~☆」
 その時五本ほどの青いビームがグレーテルの右側から飛来したがグレーテルには命中はしない、一瞬レッドの援護射撃かと思ったが今の攻撃は明らかにグレーテルを狙っていた。
 「新手っ!!?」
 「そういう事ですわっ!!!!」
 非常事態に止まっている観覧車の屋根の上に死神のような大鎌を構えた蒼いツインテールの少女が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
 「古戸ヱリカっ!!」
 ヱリカが大鎌――【偽りを狩るを鎌】を水平に振るうと百発以上はあるだろう直径数センチ程度の青い光弾が彼女の前に出現し、一斉に発射された。
 「ヱリカも弾幕戦法を使う!?」
 青い光弾の間をすり抜けエヴァの赤いビームも避けながら更に後退を余儀なくされた、そこへ更にひときわ大きいヱリカの光弾が飛んでくるのをギリギリ回避できたが、その攻撃のタイミングの絶妙さに驚く。
 「……弾幕の上手い使い方をする……」
 「弾幕はブレイン! 常識ですわよグレーテルぅっ!!!!」
 余裕の笑みを浮かべながらヱリカは叫んだ。 


 
 グレーテルの苦戦を黙って見ている趣味はレッドにはなかったが、しかし空中戦になってしまえば手出しのしようがなかった。
 「やばいぜっ! エヴァだけじゃなくてヱリカまで出てきやがったぜっ!!」
 イエローに言われるまでもなくやばい状況とレッドも焦るが、いい考えは浮かばない。
 「僕達も飛べれば……ピンクの攻撃は!?」
 「う~~~! 無理だよぉ~高すぎるし火力も違いすぎるよ~~~!!!」
 グリーンに答えるピンクの声は泣き声にも近かった、確かに下手に攻撃してあの弾幕の雨を受ければひとたまりもないのはグリーンも理解は出来るが、このままグレーテルを一人で戦わせてはいられない。
 「ブラック、ホワイト! 何かいい手はないかい!?」
 「……僕達では……」
 「私にはとても……」
 ブラックもホワイトも申し訳なさそうに首を横に振る。
 これはでは相手が地上まで降りて戦ってくれたせいもあって空中戦闘の可能性を軽視していた自分をグリーンは迂闊すぎたと後悔する、人間は所詮地を這うのが運命という常識に囚われて空中から攻撃出来るという事がどれだけのアドバンテージを得られるかというのを考えもしなかったのだ。
 「くっそっ! 何でグレーテルには翼があって俺達にはないんだよっ!!!?」
 レッドの叫びが呼んだわけでもないだろうが、その時青い光弾が彼らの周囲に降り注ぎ着弾して爆ぜた場所から閃光と煙が上がるが、それはレッド達を狙ったのではなくただの流れ弾なのは十数発だけだったという事から分かる。
 「……シャレになんねえな、グレーテルもよくもあんな奴らと一人で渡り合っていられるもんだぜ」
 ゴロゴロという唸り声のような雷の音が近づいてくるのを聞きながら、自分達の実力不足という現実を見せ付けられたレッドだった。
 

 
 エヴァのビームの弾幕の範囲から逃れたグレーテルにヱリカが【偽りを狩る鎌】を振り上げ斬りかかってくるのをグレーテルは【天使の双刃】を交差させて受け止めた。
 「あんたも飛べるのっ!!?」
 「おっほっほっほっほ~!! あなただけがいつまでも特別扱いとは思わない事ですわね、グレーテルぅ?」
 「特別扱い?……ちっ!」
 ヱリカが刃を引き下がったところへエヴァのビームが撃ち込まれる、ヱリカを巻き込まないためか数本だった。 
 「そうよぉ! あんたに比べれはあたし達は……あたし達は……うう……」
 「そうですわ! このアホ文士のエコ贔屓のおかげで空は飛ぶはバリアは張れるは、あげくには未来のベアトリーチェと融合して超絶にパワーアップとか……これを特別扱いと言わずに何を特別扱いと言いますのっ!!!?」
 再度グレーテルに肉薄して【偽りを狩る鎌】を打ち込むのを左右のブレードを駆使して防御するグレーテル。
 セブン本編での登場こそ良いものだったが、その後は立場的な扱いの難しさゆえに出番がなくなるどころか最近はすっかり出オチキャラのエヴァ、そしてどこぞのアホ文士のせいで劇場版において情けないネタキャラと化したヱリカ。
 そんな不遇な立場を思い出してか二人の魔女は目に涙を浮かべながら攻撃を続ける、その二人の様子にグレーテルは呆気にとられたという顔になった。
 「……ちょっ……いったい何のことを言ってるのよっ!!?」
 「まだ分からないんですかぁ~!?」
 「ならはっきりと言ってあげるわよグレーテルぅ~!!」
 ヱリカとエヴァは一旦攻撃を止めるとグレーテルを見下ろす位置に並んでビシッと指を突きつけた。
 「私達はこの戦いであなたを倒し、我らをネタキャラだと思っているすべての文士に見せ付けてあげるのですわっ!!!!」
 「そうよぉ!! あたし達は本来とっても恐ろしい魔女だと見せ付けて最高に素敵な悪役に描かせるためにねぇっ!!!!」
 「「そうっ!!!!」」

 
        うみねこセブン番外編  もう、ネタ魔女なんて言わせないっっっ!!!!!!!
 
 
 その瞬間に時は間違いなく止まっていただろう、本当にそう思える程の沈黙だった。
 「…………本気……?」 
 脱力で危うく落下しそうになるのを堪えてグレーテルがそれだけ言うと二人の魔女は「「本気(マジ)よっ!!!!」」と声を揃えて返してきた。
 「本気と書いてマジと読んだ!?」
 「そんなわけなので死んでもらいますわよっ!!!!」
 そのヱリカの声を合図にエヴァがケーンを振るいビーム攻撃を再開すると同時にヱリカが【偽りを狩る鎌】を構えて突っ込んでくるのを、ビームを回避して受け止める。
 「さっきまでのシリアスは何だったのよっ!!?」
 「今でも大真面目ですわよっ!!!!」
 横薙ぎに振るわれた【偽りを狩る鎌】をかわして【天使の双刃】で反撃するが、ヱリカは涼しい顔で後ろへ下がり回避する。 そこへエヴァのビームが撃ち込まれる、初めて共闘しているとは思えない程の連携プレーにいつまで避けれていられるかと焦りを感じるグレーテル。
 同時に目的が同じであるとこうも団結できるものだと驚きもする。
 「そう言うことなのぉ!! だから、さっさとやられちゃえばぁ~~~~!!!」
 「やられるかっ!!……くっ!?」
 シャワーのように降り注ぐエヴァのビームの一発がグレーテルの背に命中した、一発一発の威力は低く致命的なダメージではないが崩れたバランスを立て直した時にはかなり高度が下がっていて、黒く厚い雲を背景にエヴァとヱリカは並びケーンと【偽りを狩る鎌】を振り上げるのを見上げるしかなかった。
 「…………」
 勝ち誇った笑い顔で二人はケーンと鎌を振り下ろすとそれに応えるかのように天が光り空気を振動させる程の轟音が響き渡った、それは天からの裁きか何かを思わせる恐るべきイカズチ。
 大自然の強大な力には魔女といえど成す術もなく、呆然となるグレーテルの前で直撃した…………。

                                                                             エヴァとヱリカにっ!!!!!



 「「あぎぎゅげぎょぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!?」」
 天候が悪化しゴロゴロという雷鳴が聞こえるのにケーンと大鎌を振り上げれば、当然と言えば当然の結果である、しかし何が起こったのか理解する事が出来ないグレーテルの視界に映ったのは数秒前までエヴァとヱリカだった黒い二つの塊が重力に従って落下していく光景だった。 


  こうしてセブン達にとっては今回の事件は幕を閉じたのだが当事者達にとってはそうではなかった……。


 「いや~~話を聞いたときは驚いたけどエヴァ様が無事で良かったにぇ~~♪」
 「ふぉふぉふぁふふぃふぉ~~~~~!!!!!!!(※どこが無事よ~~~~~!!!!!)」
 医務室のベッドでミイラ女と化しているエヴァの枕元ではシエスタ三人衆が、エヴァに届けられたお見舞いのメロンを切って”三人”だけでムシャムシャと食べていた。
 「……しかしです、雷に撃たれて黒コゲになってもこの程度で済むってエヴァ様ってすごいですねぇ~?」
 「そうだな、エヴァ様の生命力は侮れんという事だろう」
 そんな事を言い合うシエスタの00と45も、メロンをエヴァのために残しておこうという考えはなくどんどんとスプーンですくって口へ入れていく、そのまま直接かじりつくと言う行儀の悪い事はしない。
 「きひひひひひ、エヴァ様ネタ魔女で良かったにぇ☆ そうじゃなかったら今頃本当にあの世逝きだったにぇ~♪」
 「ふぇふぁふぁふぉッふぇふぃふふぁ~~~~~!!!!! ふぇふぁ! ふぁふぁふぃふぉふぇふぉんふうふぁ~~~~~~~!!!!(※それ、あたしのメロン~~~~~!!!! てか! ネタ魔女って言うな~~~~~~!!!!!!)」



 幻想界にある神社のような建物の脇に一回り程小さな木造の建物を人は祭具殿、またはヱリカ専用祭具殿と言う。
 「そんな事言うわけねえでしょうがぁぁぁあああああああああああっ!!!!!」
 その一室にロープで吊るされたヱリカが唐突に上げた叫びに「いったいお前は誰に言っているんだ?」と不思議そうな顔で言うのはミラージュだった。
 「……うふふふふふふ★ 気にしなくていいわミラージュ、この子は時々こうなのよ★」
 そのミラージュの傍らに立つベルンカステルは黒く邪悪な笑いを浮かべている、説明するまでもないかも知れないが番外編なのでこのヱリカは庭園物語仕様なので、雷に撃たれようが即復活し祭具殿逝きがお約束なのである。
 「このアホ文士がぁぁぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!!!!」
 「……それで、これをどうしようと言うのだベルンカステル?」
 エリカの叫びを無視して問うミラージュは、ベルンにはこれから面白いものを見せるからとしか聞いていない。
 「……うふふふふふふ★ コーネリア?」
 「はい也や~~♪」
 二人の背後に控えていたコーネリアが手に持ったスイッチを押すとヱリカの真下の床がスライドしていく、そしてその下から黒く四角い物体がせり上がって来たと同時に熱気がヱリカを襲う。
 それは激しい炎に炙られた巨大な鉄板であった、もちろんそれで肉や野菜を焼こうと言うわけではない。
 「ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!?」
 悲鳴を上げながらヱリカは今の自分の置かれている状況にデジャビュを感じていた、そう、確か某世紀末救世主伝説のアニメで世紀末覇者を目指す男の手下がある村を襲撃した時の話だったか。
 「ほう?」
 「……うふふふふふふ★」
 ベルンの意図を察したミラージュは感心したように唸り、ベルンは邪悪な笑いを彼に向ける。 ヱリカは必死で許しを乞うがこの二人に限って情けをかけるはずもなく、ましてや南斗水鳥拳の使い手が助けに来てくれるはずもない。
 「……コーネリア?」
 「はい也や~~~♪ ヱリカ卿、私としても非常に心苦しい也が、これも命令と知り給え~~~~ポチッとな★」
 セリフとは裏腹にすがすがしい笑顔でボタンを押すコーネリア、そしてプチッという音と共にヱリカの身体を吊るしていたロープが無常にも切れる。
 「ぎゃぁぁぁぁぁっあんた達の血は何色だぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!?」
 そして今日も祭具殿にヱリカちゃんの悲鳴が木霊する平穏な一日であった。 
   
 

 「全然平穏じゃねえですわっ!!! く~~~ちょっと、そこの文士諸君! あなた達はこのアホみたくはしませんよね!? セブン本編ではちゃんとかっこいい悪役として描いてくれますよね!!?……てか、お願いですから描いてくださいぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!!」    

Re: 番外編 - KENM

2012/10/14 (Sun) 02:12:04

※この番外編は26話の頃を想定しています。可能な限り本編の展開に近付けて構成していますが以降の物語が同じ流れになるとは限りませんので御了承下さい。…特にフェザリーヌのキャラや立ち位置はかなりの確率で変化すると思われます(笑)



<font size=5>雷鳴の轟く夜に ????</font>



???「なかなか面白い見世物であったな。『中立派』のルーフィシス…か」


年代物の木製椅子に深く腰掛け、先程まで目の前の空間に映し出されていたうみねこセブンとルーフィシスとの激闘の光景に心躍らせていた余韻に浸っていたのはその書斎の主、フェザリーヌ=アウグゥストゥス=アウローラ。
尊厳なる観劇と戯曲と傍観の魔女と呼ばれる魔界有数の伝説の魔女の一人である。


フェザ「雷塵事件。我が図書の都の無尽蔵の蔵書の中から記述のある書を探し出すのはかなりの骨であったようだが……何とか見つかったようだな」


先程の戦いの終盤にうみねこブルーの口より2度ほど名が挙がったその事件に興味を持ったフェザリーヌは自身が所有する広大な図書の都の司書の数名に命じてその事件の事が記された書を探させていたのだ。
司書が見つけ出したその本は比較的新しいものであったが…その装丁には数カ所に渡って大きな滲みや傷が刻み込まれていた。
様々なカケラ世界の書という書が網羅された図書の都ならではな品の一つ。書の内側よりそのカケラ世界で生じた怨嗟や怒りといった負の感情が溢れ出して書自らが自傷行為を引き起こすという呪われた書物によくみられる現象であった。


フェザ「ふむ、この書の…第三章の終盤か。ご苦労であった、下がって良いぞ」


司書から本を受け取り、労いの言葉をかけて退室を促すフェザリーヌ。
司書の退室を確認してから早速ぱらぱらと本の頁をめくり始める。

本のタイトルは…『一つの世界の終焉録  上巻 ~抗える者無き空白の歳月の人と幻想との戦闘記録~』。

うみねこブルーこと右代宮縁寿が元々いた世界が辿った歴史が記された書だ。
副題の通り上巻では縁寿が成長して『ファントム』に戦いを挑めるようになるまでの空白の年月の間に起こった人と幻想との戦いや事件の記録が四章構成で詳細に記されている。

第一章は『ファントム』の襲来とその直後から戦いを挑んだ者達の攻防と敗北の記録。…つまり、右代宮一族の戦いの事だ。
第二章は敵対者を排除した『ファントム』の人間界侵攻の記録。…いや、侵攻と言うよりは橋頭堡確保の為の政治的な駆け引きや外交、裏取引といった侵略の下準備段階と言うべきか。
…そして件の第三章は世界崩壊の序曲。…人間界への侵攻準備を整え終えつつあった『ファントム』が万全の態勢で人間界征服に望む為に魔界の政敵達を一掃して全体主義へと傾き世界の終焉を決定付ける転機が訪れるまでの記録。


フェザ「人間界での命名は凄まじい落雷によって街一つが塵と化した事から『雷塵事件』…魔界側での正式名称はルーフィシスが起こした戦いと言う事で『凶雷戦争』。うみねこブルーの世界の時間軸で今より6年の後に起こる戦い。事の発端はこの戦いが起こる2年前、人間界への侵攻を着実に押し進めていた『ファントム』が意見を違える『穏健派』や『中立派』を一掃する為に攻撃を開始して魔界で内戦を勃発させた事から…となるのか」


一言に『穏健派』や『中立派』と括っていても広大な魔界をたった数派で割拠している状況なのだからそれぞれの派閥の規模は大国と同様に考えても差し支えはない。
当然、その戦いの規模は世界大戦並みに魔界各地で繰り広げられる事となったのだが…


フェザ「元より人間界への侵攻を成功させつつあった事で血気盛んな魔界の猛者達や頭脳明晰な魔術師や魔女達の多くの支持を集めていた『ファントム』は質、量共に圧倒的優位に立ち、量産に成功した幻想怪人による実験的な掃討作戦をも含めてたった半年で内戦を完全勝利で終結させ『穏健派』、『中立派』に属していた者を全土から駆逐し尽くした。…当然、『中立派』の重鎮であったルーフィシスの父、ディアシス=フラグベルト少将も戦場の露と消えたわけだな。…いや、正確にはルーフィシスを除く家族全て…か」


ここまで事情が分かれば後の成り行きはもう思考を巡らせるまでもないだろう。


フェザ「…凶雷戦争時は齢16の時になるのか。…悲劇、だな。もう数年の時を耐え忍んでいれば成長してファントムに戦いを挑み始めたうみねこブルーと共に戦う未来もあったやも知れぬが…歴史は残酷だ。一人虚しく復讐戦を挑み、街一つを巻き込んで壮烈な最期を遂げた…か」


戦いに至った経緯から推察する限り……自らが生き残るつもりのない『特攻』であったことはまず間違いないだろう。


フェザ「…最期を迎えた時の表情はあの娘ならばさぞ安らかなものであろうな……」


先の展開が読めて興が醒めてざっと流し読みし始めていたフェザリーヌの目が『特記事項』の欄に来てようやく文面に再び興味を示す。


フェザ「……この戦争でのファントム側の人的損害は五千以上、最終的には業を煮やしたミラージュが直接手を下しに戦場に現れた…か。その際にミラージュが放った一撃こそが正式名称不明で仮称として【インドラの矢】と呼ばれた弓撃型殲滅級大魔法、これが街を灰塵に帰した…と言うのが事の真相か」


ルーフィシスは確かに凄まじい攻撃力を有していたが街を一つ消し飛ばすともなればどうしても『爆発力』が必要だ。【サンダーブラスト】など雷撃を爆発に変換する技術も持ってはいたが規模の違いからフェザリーヌは街を消し飛ばしたと言う点については彼女が行った行為なのかに疑問を抱いていたのだが…やはり第三者によるものが直接的な原因であったのだと得心する。


フェザ「…右代宮縁寿はこの雷塵事件を『中立派』が『ファントム』に与して起こした一件だと解釈してルーフィシスを後々に敵に回る者と思ってあの場で討ち取るべきだと判断した。…『自身の心の闇に向き合えない様なら貴女は呪われたブルーダイヤになる』とは、上手く表現したものだなルーフィシスよ。致命的なまでに敵を増やす元となる猜疑心、幻想の存在全てを復讐の業火で焼き尽くさんと燃やし続けられた敵愾心。これは確かにどうにかせねばならん事案よな。…くく、もしうみねこブルーが最期を迎える時が来たならば…彼女とは対称的に全てを呪い殺さんとする怨嗟に満ちた表情になるのであろうよ」


ミラージュを呪われたブルーダイヤとして広く知られる『ホープダイヤ』と評した上で縁寿にそう忠告したルーフィシスの辛辣にして洒落た表現にフェザリーヌは口端を軽く釣り上げて微笑する。
最も一緒にされたくないファントムの首領と言う存在と同一視されるなど、右代宮縁寿にとってどれだけの侮辱、屈辱であるかは言うに及ぶまい。
…いや、既に自らが迎える最悪の末路の一つを知っていたはずのこの時のルーフィシスの精神状態を思えば互いの在り方の違いに憎悪の様な思いも込められていたのかも知れない。


フェザ「それにしても…まさかあのミラージュを引き摺り出す事に成功していたとは。…ルーフィシスは命懸けの敵討ちとなったこの戦いで奴に一矢報いる事には成功していたとみてよい様だな」


うみねこセブンとの戦いで見せた鬼神の如き強さをその『たった一人の戦争』でも奮って見せたのだろう。
神速の高速機動に疾風の剣技。
驚異的な柔軟性から繰り出される不可思議な体術。
近距離から遠距離まで千変万化の凄まじい雷撃魔法。
百花繚乱に狂い咲く凶雷の災禍。
そして…少女が自らの死に場所と定めて生み出した血風吹き荒ぶ地獄の戦場はその慟哭に応えて姿を現した魔王より放たれた裁きの一矢によって街一つと共に消し飛び閉幕の時を迎えることとなる…。




『………この戦いが『穏健派』、『中立派』が完全に駆逐されて魔界での内戦が終結したという確たる証となり、それが終末への最後の引き金となる。
憂いを無くした『ファントム』は政敵排除後も各地で整え続けていた侵攻作戦をこれを契機として一斉に発動させて人間界へと怒涛の勢いで攻め寄せ、世界を滅びへと加速させていったのだった。』

…人の世が人の世らしく在れた最後の歴史となる三章を結ぶ最後の頁に綴られた一文である。
上巻の最終章となる第四章は滅びの記録。どの都市から、どの島から、どの国から順に人が居なくなり、生き物が消えていったのかの羅列と言っても過言ではないこの世の終わりを絵にかいたような凄惨極まる内容であった。


フェザ「……第四章は世界大戦すら比では無い無数の死の記録…か。『ファントム』の存在に対抗する特定の人物や派閥の動向、戦いにスポットが当たっていた第三章までとは打って変わって世界規模での一方的な殺戮の記録とは…『一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない』、とは正にこのことだとでも言いたげだな。…この未来の書…一見には値する物語だろう。…だが、二度見て面白いものではないな」


パタンッ。と書物を閉じて机の片隅に詰まれた数冊の本の上に無造作に積み上げるフェザリーヌ。
縁寿のこれまでの反応や言動から見て取れる限り、おそらく未来の戦いにおいてミラージュがその姿を表舞台に現したのはこの時が最初で最後なのだろう。
だとするならば……この歴史が繰り返される時、それはうみねこセブンが倒された時だ。
それはフェザリーヌにとって最も面白くない結末の一つに向かう事を意味している。


フェザ「…うみねこブルーが過去へと回帰した事による世界の変化がいよいよ大きな力となり始めている。…それでも、ミラージュという強大な存在を前に果たして運命の壁を打ち破ることが出来るものかどうか…」


いったいこの世界の中ではどれだけの存在が傍観者でいることを赦されるのであろうか?
新たな駒を遠方から操る形で動かして投じたとはいえ、きっと自分でさえも真の意味ではもう傍観者では無いのだろう。
彼等の戦いがどれだけのものを背負いながら続いてくのか、どれだけのものの運命を狂わせ惑わせる事になるのか、それはもう誰にも分からないことなのかも知れなかった。

そう、それは正に運命のカオス。
旺盛な好奇心から退屈を嫌う彼女は何より未知を好む。


フェザ「精々励むのだな、うみねこセブンよ。ルーフィシスという少女の未来が何処へ向かうのかもまたお前達の頑張り次第、その手の内にあるのだからな。…ふふふ、はーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはッ!!」


大きく変わり始めたこの世界の未来はどの様な結末を迎える事になるのか?
傍観者では無くとも未だ遥か遠くからの観劇者であるこの大魔女にとってこの世界の戦いは最高の愉悦へと変わりつつあったのだった。











??「……危なかったわね。このフロッピーから予測出来る情報が無かったら…数年以内に『中立派』は滅ぼされていたかも知れないわ」

????「?神妙な顔付きだが…そんなにヤバいデータだったのか、リィ?」


カタカタとキーボードを叩き続けていたリィと呼ばれた少女の手が止まり、後ろから話し掛けてきた青年へと視線を向ける。
二人とも蒼い髪が薄く輝いて見えるその特徴的な髪質から縁者である事は想像に難くない。
青年の名はラディス=フラグベルト、少女の名はリーフィ=フラグベルト。
ルーフィシスの兄と姉に当たる二人だ。


リィ「ええ、ルーが手に入れたこのフロッピーディスク。データの内容としては改竄が加えられたデタラメばかりだったんだけど、こちらの戦力データや基地データの詳細が分かっていないと到底書き換えられない様なことばかりなの。曖昧な点が多いから憶測になる点も少なくは無いんだけど…それでも間違いなく私達にとって命綱になるだけの重要情報だったわ、これは」

ラディス「そりゃ有難ぇな。うみねこセブンの重要情報に続いてファントムの重要情報まで半月と掛からず軽々と得て来られるとは流石はルーだ。…とことん、出来の良い妹だな。俺とは違って…(涙)」

リィ「ラディス兄さん、自虐しないの。それにしても…やっぱり不自然なデータだわ」

ラディス「ん?何が不自然なんだ?」

リィ「このデータ…実はまだ配備されていない武装データのダミーまで入っていたの。納期が来月末って話なんだけど、発注を掛けたのはそれこそ昨日の事よ?…だけど、ルーが随時更新されていると言われて渡されたこのフロッピーを持ち帰ったのは三日前。解析を進めたからこそ、今になってそのズレの違和感に気付く事になったけど…いくらなんでもおかしいのよ」

ラディス「2、3日の差異なら口頭連絡とか在庫の確認とかの盗聴で事前に情報を得る機会はあったんじゃないか?」

リィ「…昨日の納期の打ち合わせの際にロットの都合で急に発注数が変更になった数字で織り込まれていたのよ?そんな時系列が前後した事まで情報が筒抜けるなんていくらなんでもおかし過ぎるわ」

ラディス「そうなのか?それならほら、俺も一応親父から聞いたんだが『うみねこブルー』ってのは未来から来たって話だったろ?そいつが持って来た情報がファントム側に流れて
それでその武装を仕入れる事も事前に知る事が出来たって話なんじゃないか?」

リィ「その推測には致命的な無茶があるわラディス兄さん。第一に、『ファントム』はまだ彼女が未来から来たって情報を掴んでいないのだからそんな情報が向こう流れている訳が無いわ。そして、第二に彼女が未来からもたらした技術や情報によってうみねこセブンはあのベアトリーチェ達の打倒に成功した。…それが以前歩むはずだった歴史から大きくかけ離れた事象である以上、それによって『中立派』や『ファントム』とのパワーバランスが変化した『今の状況の未来』まで再構築して未来が読まれている、と言うのはどう考えても有り得ない事よ」

ラディス「………まぁ、俺等は魔界に籍を置く悪魔の一種で人間じゃあねぇからなぁ…。それなりに予知能力者とか異端な能力者が絡んでいてもおかしくはねぇんだが……それを込んで考えても確かに妙な話だな」

リィ「…この作戦の立案者は『あの』ミラージュよ?…私にはこの現象は最も考えたくも無い恐ろしい事を意味している気がしてならないわ。ミラージュはもしかしたら…ヨグ=ソトースに近い存在なのかも知れない…とさえね」

ラディス「よぐ…え?なんだって??」

リィ「…ラディス兄さん勉強不足、ルーならちゃんと分かってそれなりの反応をしたと思うよ?」

ラディス「くっ…、そ、それで、そのヨグ何たらと似ていたらどうヤバいんだ?」

リィ「もう、すぐそうやって誤魔化そうとするんだから。簡単に言えば次元が違う上位世界の存在なのかもって話かな?…まぁ、そこまで危険な存在かはさすがに深読みかも知れないけどね。まだ比較的普通な予知や未来視かも知れないし…とにかく、お父さんにも連絡してデータの解析と分析はキッチリと進めておくわ。…その辺りがどう転ぶにしても、『ファントム』が暴走するようなら私達『中立派』や『穏健派』は最後の盾として阻まなければならないって事はハッキリしたのだしね」

ラディス「…そう、だな。最後の盾…か。…まぁ、だからといってルーを一人残して死ぬわけには……いかねぇがな」

リィ「…うん。『雷塵事件』が起こるその未来だけは何としても阻まないと…ね」


二人の表情が沈痛な面持ちとなり俯き加減で揃ってその両手を強く握り締める。
ルーフィシスは優秀であるが故に得た情報の全てを然るべき存在に包み隠さず子細に報告を上げていた。
……つまり、うみねこブルーがこの世界に持ち込んでいた全ての情報を、である。
彼女からの情報はあくまで人間側からの一方的な視点で見た情報であり、魔界側の情勢やそれぞれの派閥の動静については疎く、殆ど記されてはいなかった。
…だが、現状の自分達の立場と状況、その行動理念を鑑みれば『中立派』や『穏健派』の終焉と自分自身に訪れたであろうその末路を察するには充分過ぎるだけのヒントであった。
ラディスとリーフィは雷塵事件の発端が何であったのか、ルーフィシスが自らをそこまで追い込み覚悟を決めるだけの理由に気付いていたのだ。


ラディス「……今日の訓練は一通りこなした後なんだが…今からもう一度鍛え直すとするか。じゃあなリィ、解析の方は頼んだぜ」

リィ「うん。肌が随分と荒れちゃうだろうけど目処が立つまで2、3日は完徹で調べ上げてみるわ。兄さんも頑張って」


悔しさに沈んでいた表情をキッと持ち直して今し方まで練兵場で振るっていた剣を片手に再び練兵場へと戻って行くラディスと簡素な非常食を数日分足元に揃えてから再びパソコンのキーボードを素早く叩き始めるリーフィ。
ヱリカがもたらした情報によって少なくとも、『この世界』ではルーフィシスにとっての終焉の悪夢となる『雷塵事件』が起こり得る可能性は大きく軽減されつつあった。



こうして、フロッピーディスクから得られた情報の徹底解析によって『中立派』の参謀の一翼を担うリーフィ=フラグベルトはこれまで謎の存在とされてきたファントム首領、ミラージュの正体へと大きく近付く事になる。そして、その情報を元に『中立派』がこの世界でどの様なイレギュラーを引き起こす事になるのか?

何もかも、全ての者の全ての行動が………それぞれの運命にどう作用するのか今はまだ誰にも分からなかった。




雷鳴の轟く夜に ???? 終


雷鳴の轟く夜に Tipsへ続く
※こちらは暫く後に投下する事となりそうです。


Re: 番外編 - KENM

2012/09/27 (Thu) 22:35:59

※この番外編は26話の頃を想定しています。可能な限り本編の展開に近付けて構成していますが以降の物語が同じ流れになるとは限りませんので御了承下さい。…特にヱリカのキャラはかなりの確率で変化すると思われます(笑)



<font size=5>雷鳴の轟く夜に Tea party</font>


ルー「あ、ヱリちゃん久し振り~♪」

ヱリカ「ヱリちゃん言うな!…て言ってもあなたのことですから言うだけ無駄でしょうね。…お久し振りです、ルーフィシス」


魔界のとある田舎町の料理店で出会うルーフィシスと古戸ヱリカ。
偶然…と言う訳では無く、お互い面識がある二人は久し振りに旧交を温めようと今日ここで待ち合わせていたのであった。


ヱリカ「料理はもう頼んでいたのですね。何を食べているんですか?」

ルー「たぬきうどん、ってやつ。メニューで始めて見たから試しに頼んでみたんだけど…失敗だったみたい。フツーだよこれ!」

ヱリカ「…文化圏の罠ってところでしょうか。なら、わたしはきつねうどんにでもしましょう」

ルー「あ、じゃあ油揚げちょーだい♪」

ヱリカ「ただのかけうどんになるから駄目です!って、その左腕どうかしたのですか?」

ルー「まぁ、ちょ~~~っと派手な一戦をやらかしちゃってね。手強かったわぁホント」

ヱリカ「それは災難でしたわね。…って、作法としてはどうかと思いますけど片手でも器用に食べるわねあなた。箸を持ったままお冷やうどん出汁を飲むなんて始めて見ましたよ」

ルー「まぁ仕事柄、負傷するのはよくある事だからねー。片手で食べるのも手馴れちゃってるんだ」

ヱリカ「そうなんですか?私が知る限り貴女がそれほどの手傷を負っている姿は始めて見ますけど」

ルー「普段は捻挫や打撲程度だから2、3日家で安静にして休んでれいば済むって話だけど…今回のこれは骨折だからね。不覚を取った事を衆目に晒す事になっちゃうけど直ぐには直せないからしょうがないよ」

ヱリカ「あらあら、中立派の重鎮の懐刀、『凶雷のルーフィシス』も地に堕ちたものですわね。…まぁ、七対一では流石に無理もありませんでしたか?」

ルー「なぁんだ。やっぱり知ってたんじゃないヱリちゃん。そうなの、一人二人なら余裕であしらえるかな~とか思ってたらいきなり全員集合!で、その後フルボッコになっちゃったってわけ。何て言ったらいいかなーこの悔しさ」

ヱリカ「油断大敵ってところかしら。…でも、貴女ほどの使い手が何も得られずに逃げ帰って来るはずは無いでしょう?」

ルー「うん。一応うみねこセブンの正体とか弱点とか、潜在能力の上限とか、データバンクの全情報とか。性質の悪い蒼髪ツインテが知っちゃったら3日で制圧出来るぐらいの情報は掴んだつもりだけどね」

ヱリカ「…へぇ。それは興味深いですねぇ、ウチの使えない連中のいい加減なにわか情報よりも信頼度も鮮度も実に活きが良さそう。どう?その情報、友人の誼でその性質の悪い蒼髪ツインテに売ってくれないかしら、ルー。報酬は弾みますよ?」

ルー「あはは、ヱリちゃんが『ファントム』の幹部になる前だったら女の子トークで教えちゃってもよかったんだけどねー。…今のお互いの立場では、ちょっと無理かな」

ヱリカ「それは残念。ベアトリーチェの後釜を任された身としては早急に成果を出しておきたいところですが…ここで貴女の口を強引に割らせる行為は『中立派』が全面的に『ファントム』に敵対するリスクを孕んでしまうでしょうから利口とは言えませんね。…それがどうした、と言えない戦力しかないとは…本当に、今の『ファントム』には優秀な手駒が足りませんわね」

ルー「早くも中間管理職の悲哀だねぇヱリちゃん…。ああ、その辺りで一つ忠告。前任者の方針が気にくわないからってあんまりムキになって改革を進めて部下に鞭を入れ過ぎるのは良くないよ?」

ヱリカ「あら?山羊の虐待がもう噂になっているんですか?そちらの情報網も馬鹿に出来ませんね」

ルー「だ・か・ら、それだけ目立つ行動だってことなのよ。『中立派』も『穏健派』も今の『ファントム』は何をするか分からないって不信感を一層強めてる。これまでみたいな様子見では無く…直接アクションを起こすかも知れないよ。解放軍気取りな『彼等』も」

ヱリカ「ふふふ、やっぱりお人好しですわねルーは。そうやって友人としての忠告のつもりでしっかりと私に情報を流してくれている。そういうところ、嫌いじゃないですわ」

ルー「うー。脳筋ってほど馬鹿じゃないつもりだけど、外交交渉は苦手なの。と言うより、私は卿の大魔女様と違って外見通りの年齢のお子様なんだから政治的駆け引きなんてものはまだまだ雲の上の会話なんだってば」

ヱリカ「あっははは、貴女って本当にアンバランスな子ね。策士顔負けな演技が出来るかと思えば時折素だったり。暗殺者顔負けな殺気を放つかと思えば歳相応の小学生な無邪気さを見せたり、面白いわね。これだから貴女とはいい友人でいられるわ…ねッ!」

ルー「おっとッ!?」


何気ない会話の語尾が鋭くなった直後に一瞬で交錯される魔剣と蒼い大鎌。
ルーフィシスの首筋には大鎌の刃が。
ヱリカの喉元には魔剣の剣先が。

…完全に殺し合いの空気に様変わっているにも関わらず、お互いの表情には笑みがこぼれている辺りは普通の精神の在り方とは掛け離れた者同士ならではな狂気のコミュニケーションである。


ルー「奇襲に大鎌は向いてないってば。銃の方がよかったんじゃない?」

ヱリカ「ふふ、それじゃあいまいち絵にならないじゃないですか?それに、この服って早撃ちするにはひらひらし過ぎてるんですよねぇ」

ルー「じゃあ何でそんな戦力ダウンな服をわざわざ着て来てるの?ヱリちゃんにそんな趣味あったっけ?」

ヱリカ「…まぁ、色々と事情はあるんですよ。さて、折角ですからこのまま少し『遊び』ましょうかしら、凶雷のルーフィシス?」

店長「こらぁ、そこの嬢ちゃん達!喧嘩すんなら表へ出やがれ!俺の店の備品を一つでも壊しやがったら三途の川に叩き込むぞッ!!」

ルー&ヱリカ「「…はぁい」」


髑髏の様な怪しい仮面を被ったア・サシン店長の強烈な一喝によって店を追い出されるルーフィシスとヱリカ。
互いの武器を納めた二人は次の店に向かおうという話となり肩を並べて夜の街を歩き始める。


ルー「それで、ヱリちゃんはうみねこセブンとどう戦っていくつもりなの?」

ヱリカ「別に。どうと言う事はありません。ミラージュ様の理想を阻む邪魔者は、欠片も残さず殲滅するだけです」

ルー「…足りてないんでしょ、手駒。いくらヱリちゃんでもナイトやルークに該当するだけの実力者が居ない今のままだと…間違いなく苦戦するよ?」

ヱリカ「確かに、体裁上大言は吐いておくつもりですが、実際に全員を片付けるにはそれなりに手間取ることになるだろう、という事は認めますわ。…ふぅ、あなたが2、3人始末しておいくれていれば随分と楽になったのに。…どうせ何度かは仕留めるチャンスをわざと棒に振ったのでしょう?そうでなければ…相手の器量の底の底まで見抜くなんて無駄な情報は得られないはずです」

ルー「…ふふ、やっぱり鋭いな~ヱリちゃんは。ベアトリーチェの後任として最前線を任されるのも納得だね。…でも」

ヱリカ「でも?」

ルー「レッドダイヤとブルーダイヤの異彩の輝きを放つヱリちゃんは司令官って柄じゃないと思うよ?」

ヱリカ「………。そんなことはありません。私はミラージュ様に見込まれて今の地位を得たのです。必要とあらば、10万の艦隊だって指揮して見せますわよ?」

ルー「出来るから、といってその力を発揮する事がその人の為になる事とは限らない。確かにヱリちゃんは分析力も鋭く判断力も優秀。そして、何より大胆な策を実行出来る行動力もある。でも、切れ過ぎる刃物は自身の身も傷付ける。その危うさが…ヱリちゃんは人一倍大きいよ」

ヱリカ「…実に、あなたらしい忠告ですわね、ルーフィシス。あなたの分析力を過小評価するつもりはありませんが…その忠告に従うわけには行きません」

ルー「……そっか。最高級のレッドダイヤとブルーダイヤでダイヤモンドカッターを作るぐらいもったいないなぁ。せいぜい敵を作り過ぎないようにした上で、信頼出来て腕の立つ部下を一人でも多く確保しておくよう心掛けることだね。でないと」


キィン。っとルーフィシスが瞬時に抜き打った魔剣の閃きが突如として襲い掛かってきた黄金の矢を斬り裂く。


ルー「うっかり暗殺されちゃうよ?」

ヱリカ「あなたにかかると百発百中と謳われる黄金弓の矢が形無しですわね。それにしても…嘆かわしい限りです。いくら精度が高かろうと暗殺に誰が犯人なのか聞くまでも無い武器を選択するなんて…無能にもほどがありますわね、あの紫魔女は」

ルー「でも、逃げ足の速さはなかなか優秀みたいだよ?狙撃に失敗した時点で後の事は他の連中に任せて本人はシエスタのうさぎさん共々もう逃げちゃってるし。影も形も見せる前じゃあ犯人だと断じて処断するのは難しいね」


狙撃の一撃を皮切りにぞろぞろと二人の周囲に姿を現し始める複数の山羊達。
狙撃に失敗した場合はヱリカに恨みを持つ者達で囲って数で圧殺しようとの狙いだったのだ。


ヱリカ「あんな馬鹿にそそのかされる山羊達がこんなに居るとは…まだ締め上げが足りていない様ですね」

ルー「…締め上げ過ぎて精神的に殺るか殺られるかに追い詰められちゃったに一票(汗)」


山羊達の爛々とした瞳が溢れんばかりのあからさまな殺意を放ってヱリカとルーフィシスを睨む。
殺意で理性が完全に消え失せたその様は上官命令や説得を到底受け付ける雰囲気ではなく二人は倒す以外にこの場を切り抜ける道は無いと悟る。


ヱリカ「…さて、いくら人通りの少ない田舎町の通りとはいえどうしたものでしょうか。公開処刑となるとさすがに尾ひれの付いた悪評が広まるでしょうし」

ルー「…ねぇ、ヱリちゃん。提案なんだけど、折角だからこいつら私が狩っちゃってもいい?正当防衛って事で『ファントム』の戦力を合法的に潰せるいい機会だし、巻き込まれちゃった形な私ならそう大きな問題にはならないでしょ?」

ヱリカ「貸しを作ろうというつもりですか?…なら、手加減無しの貴女の全力を見せてくれると言うのでしたら譲ってあげてもいいですわ。それならこちらにも得られるものがありますから…ね」

ルー「商談成立だね。じゃあ、手加減無しの『凶雷』の実力を存分に見せてあげるよ、ヱリちゃんッ!」


並んで立っていた二人の姿が一瞬にして一人になる。
ヱリカを狙って囲い込みながら間合いを詰めていた山羊達はその不可思議な光景に首を傾げてほんの一瞬だけ思案する。

『周囲を囲っているのにもう一人は何処へ?』

…それが、彼等がこの世で最期に頭に浮かべた思考だった。

一瞬にして視界より消え失せたルーフィシスがその僅かな思案の間に近場で囲っていた山羊達の胴体を残らず切断していたからだ。


ルー「まずは6体撃破!後は」


首を傾げたまま断たれた胴体から消滅していく山羊達と一瞬の出来事に驚愕する残りの山羊達を尻目に斬り伏せた際の神速の勢いでスライディングしながら魔剣を大地に突き立てるルーフィシス。


ルー「【震電】!【地雷震】!連続発動ッ!!」


突き立てられた魔剣より全方位に放たれた雷糸の後を雷光の拘束帯が数秒の間を置いて追い縋る様に剣先から地を這い伸びる。

多重式の『照準(ロックオン)』と『拘束(バインド)』の連続攻勢だ。


ルー「18…25…41…52!オールロック、オールバインド、共に完了ッ!」


大地に突き立てていた魔剣を準手で引き抜きそのまま高々と振り上げて天を仰ぐルーフィシス。
周辺には倒された6体の山羊を除いてもまだ数十からの山羊達が直径100m以内の範囲で広く散開して囲っていたのだが…一人残らず雷光の拘束帯で縛り上げられて身動き一つ出来なくなって無様に大地に転がり、もがくだけの芋虫と化していた。


拘束を解こうと必死の抵抗を試みる山羊達だったが…無情にも、僅か十秒と掛からずに掲げ上げられた剣先の上空に巨大な雷球が集束を終えて地を這う『獲物達』へと牙を研ぎ澄ませて号令(落雷)の時を今か今かと待ち構えていた。


ルー「これで終わり!【サンダークラスター】ッ!!」


52本にも及ぶ御雷の槍が各々が獲物と定めた相手を過たずに穿ち貫き、大地を蹂躙しながら跡形もなく焼き尽くす。
…こうして、多勢で囲っていた古戸ヱリカ暗殺部隊は1分と掛からず殲滅されたのであった。


ヱリカ「……確かに凶つ雷ですわね。まさかこれだけの数の始末が1分以内で終わるとは思いませんでした。…しかも、左腕が使えない手負いのままで…とは」

ルー「要人警護の仕事柄、こういう雑魚散らしの電撃戦は得意中の得意だからね~。どうだった、私の本気?」

ヱリカ「…大隊ではありませんが電撃的に攻めるには申し分ないですわね。造反組の紫魔女とシエスタ三匹でトレード出来ません?」

ルー「駄~目♪それに…ちゃんと桁外れに優秀な部下が既に居るじゃない。ヱリちゃんの味方だって分かったから攻撃対象からは外しておいたけど…さっきの分散率じゃあ当たってても殆どノーダメージだったんじゃない?」

ヱリカ「あら。来なくていいと言っておいたのに来ていましたか。自己紹介をさせておいた方がいいかしら?」

ルー「…ううん、遠慮しておく。『魔女狩りのドラノール』と積極的に関わるのは流石に気が引けるよ」

ヱリカ「いきなりとって食われたりはしないわよ。むしろ無愛想な奴だからちょっとは慣らしておきたいんだけど」

ルー「それでも捕食されるリスクは負いたくないなぁ…。今はプライベート扱いでも自分より強い相手で敵対者なんだから流石に警戒はさせてよ。さっきの料理店の時のヱリちゃんみたいにあしらうのは難しいんだから」

ヱリカ「『凶雷のルーフィシス』でも『魔女狩りのドラノール』には勝てない、と?」

ルー「勝てないよ。…まぁ、気持ちの上ではボロ負けするつもりはないけどね」

ヱリカ「今の戦いぶりを見せてくれた上でその評価は嬉しいですね。…ええ、手駒は確かに不足がちですが、あいつが居ればどうにかなる、そういう打算も無くはありません」

ルー「…それでも数に勝る暴力は無いから過信はし過ぎないでね。七対一で負けた奴が此処に居るんだから」

ヱリカ「あらあら、せっかく気晴らしが出来たと思ったのにまた悔しい思い出を思い出させてしまったわね。仕方ないわね、次の店はここにしましょう。不快な思いをさせてしまったお詫びに私の奢りでいいですわ」

ルー「…ヱリちゃん…奢ってくれるっていうのは嬉しいんだけど…お互い未成年なのにカクテルバーってチョイスはどうかと思うんだけど?」

ヱリカ「そう?私は威厳を保つ都合上、ワインをよく嗜むようになったから少しは味の違いが分かる様になったのよ。ルーもその内飲む事になるんだから今の内に慣らしておきなさいって」

ルー「確かにそうなんだろうけどまだ十年ぐらいも先の話だって。……ヱリちゃん、もしかして私を酔わせて情報を吐かせようとしてない?」

ヱリカ「……。…いやぁねぇ、今日はオフだって言ったじゃないですか。騙されたと思って一杯だけでいいから飲んでみなさいって、絶対美味しいから、ね?」

ルー「今間があった!と言うかその一杯が危険だってことは世界共通のお約束でしょ!?別の店に…って襟首掴むな~~~ッ!!」

マスター「ようこそ、カクテルバー『デュナメス&ケルディム』へ。って、なんだヱリカか。お前が友達連れとは珍しいな」

ヱリ「…いくら顔馴染みでも客商売でなんだはないでしょう。まぁ、いいですわ。マスター、いつものやつを二つ頼みます。…ああ、この子の分はウォッカをかなり多めでお願いしますね」

ルー「ちょっ!?今ウォッカって言った?!私カクテルどころがビールや酎ハイすら飲んだ事無いんだよ!?」

マスター「なんだこの嬢ちゃんは未成年かよ。…まぁ今月も売上げが下がるとオーナーが怖ぇからな。取り敢えず用意するか」

ルー「いやいやいや、そこは止めてよ!いい加減過ぎだよこの店のマスター!」

ヱリカ「大丈夫、大丈夫。酔ったらちゃあんと介抱してあげますから。…警備の行き届いたファントムの基地最深部のアルカトラズも真っ青な特別な医務室でね♪」

ルー「拉致る気満々じゃないのよ~~~~ッ!!」


静かな風情を楽しめるのも売りなはずのカクテルバーにも関わらず、結局乱闘寸前な大騒ぎをしながら飲み明かし始めるヱリカとルーフィシス。

…結局、ヱリカの目論みは外れてルーフィシスは鉄壁の酒豪スキルの片鱗を一足早く覚醒させて大人顔負けな量を飲み干しながらも酔い潰れる事無く帰途へと着く事になる。
…実は育ちのいいお嬢様な一面もあるルーフィシスは少なからず日常的な食事でワイン入りの食材を摂っていて酒精に対してかなりの下地が出来上がっていたというオチであった。


ヱリカ「…う~~~、頭が痛い…。意地になってすっかり飲み過ぎてしまいました。まさかルーにこんな隠しスキルがあったとは…」

ルー「あはは、実は私も驚いてる。よく食べてるあの味がワインとかお酒の味だったんだな~って今日初めて知ったよ~。…どうもお父さん達に社交界デビューの時の為に恥を掻かないよう一服盛られてたみたい」

ヱリカ「まぁ爵位持ちの少将の次女ですものねぇあなた…。それにしても…ふふふ、今日は本当に楽しかったわ。色々とありがとうね、ルー」

ルー「ううん、私こそ、今日はとっても楽しかったよ♪ヱリちゃんはこれからが特に大変だろうけど頑張ってね…って、あんまり頑張られるとこっちが困る事になるからほどほどに頑張ってね」

ヱリカ「ふふふ。確かに、私が頑張り過ぎると貴女が困る事になるわね。なら、手加減で借りを返せと言われても困るから、さっきの借りは今ここで返しておきましょう。これをあげるわ」

ルー「何これ?フロッピーディスク?」

ヱリカ「ミラージュ様が立案した『中立派』と『穏健派』の掃討作戦の概要データが入っているわ。随時更新されているものだけど貴女のお姉さんにでも見せればそれなりの対応策を考えるでしょうから役に立つはずです」

ルー「え、ええ?!うわぁ、それって凄い重要情報でしょ?!本当にいいの?!」

ヱリカ「ええ。こちらの恥晒し共を実に爽快に掃除して頂きましたからそれぐらいの利息は付けておきますわ」

ルー「ありがとうヱリちゃん!じゃあ私もこれをヱリちゃんに進呈するね!」

ヱリカ「?これは…宝石ですか?」

ルー「私の戦闘服のスペアの【防護魔石(バリアクリスタル)】。スペアだから性能は佐官クラス用でそこそこだけど、いざって時には充分役に立つはずだよ」

ヱリカ「…指揮官にいざって時が来るとはあまり考えたくはありませんが…駒数の都合で直接動く事もありそうですから一応貰っておきますわ」

ルー「うん、上手く使ってね。じゃあ、またね~ヱリちゃん♪次に会う時が戦場にならないよう祈ってるよ~!」


手をぶんぶんと勢いよく振って別れを告げるルーフィシス。
ルーフィシスの後ろ姿が見えなくなると共に距離を取っていたドラノールがヱリカの元へと近寄る。


ドラ「…ヱリカ卿、よろしかったのデスか?ミラージュ様の作戦情報を寄りにも寄った相手に漏洩シてしまうとハ…」

ヱリカ「あんなの偽情報に決まってるじゃないですか」

ドラ「……ハ?」

ヱリカ「ルーフィシスの弱点は情に脆いところですね。性質の悪いこの私を相手にしてでさえ友情というものを信じて疑わないのですから」

ドラ「…で、デハ、ヱリカ卿は借りを返すと言っておいて彼女を騙した、ト?」

ヱリカ「騙される方が悪いんですよ。それに、貸し借りってものは相手がそう思わなきゃ成立しないものなんです。別に私はあの場であの子の力を借りなくてもどうとでも無難に始末を付ける手立てはあった。…なら、借りなんてものはあの子が勝手に作ったと思い込んでいただけの話なんです」

ドラ「……………」

ヱリカ「………随分と不満そうですわね。……ふぅ。今日はちょっと飲み過ぎて酔いが回りましたから口が滑りますわ。あの子は政治的駆け引きに秀でていませんが、姉のリーフィ=フラグベルトは別です。『中立派』の参謀の一翼を担うほど智に長けた者は嘘からでもその裏にある意図を少なからず読み取るもの。つまりはそう言う事です」

ドラ「…偽情報デも遠回しには役に立つ情報となる…デスか。素直でハありませんネ。貴女ハ」

ヱリカ「正直者な古戸ヱリカなんてゾッとしません?」

ドラ「………失言でしタ。貴女らしい、と言うべきデした」

ヱリカ「…ふふ、今日は本当に飲み過ぎてしまいました。ドラノール、基地に帰ったら私は仮眠を取る事にします。貴女は造反者の首魁の紫魔女とそれに同調したウサギ共にそれ相応の制裁をしておいて下さい。…あぁ、念の為に言っておきますが半殺しって意味ですよ?この私への忠誠が低いことは確認出来ましたが、それでも山羊達よりはマシな駒ですから廃棄処分するにしても手頃な捨て場はあるでしょうからね」

ドラ「了解デス。それニしても…」


ドラノールはふと思う。ルーフィシスとの貸し借りの件は遠回しながら彼女との友誼を通していた事は理解した。
…だが、だとすれば重要情報のリークとしての意味合いは、言い訳出来る体裁は繕えるものの歴然とした事実、と言う事になる。
それはミラージュ様の策謀を妨害する行為だ。

ヱリカ卿はミラージュ様に心酔しておられる様子だった。それなのに…何故よりにもよってあのお方自身の直接的な妨げとなる情報を敢えてリークしたのか…?


ヱリカ「どうしました?早く行きますわよ」

ドラ「…ぁ、すみまセン。少し考え事をしていましタ」


浮かんだ疑問に気を取られて遅れていた歩みを取り戻す為に早足でヱリカの横に並び直すドラノール。
先程ルーフィシスに悪びれた様子も無く平然と偽情報を渡していた事も有り、その表情から真意を読み取ることは到底不可能であったが……
自身のこれまでの経験で培った『勘』に頼るなら、彼女は『何か』を隠している。
そう感じ取るドラノールであった。




『雷鳴の轟く夜に Tea party』  終


『雷鳴の轟く夜に ????』 へ続く



Re: 番外編 - KENM

2012/09/09 (Sun) 22:16:29

こんばんは、KENMです。
結局三万字近い大暴走な大番外編となってしまいましたが何とか仕上がりましたので投下します。

ちょっとした続きとなるTipsの方はまだ仕上がっていないので後日の投下となりますのでご了承ください。

では、失礼します。

Re: 番外編 - KENM

2012/09/09 (Sun) 22:14:06



ホワイト「はぁ…はぁ…み…皆さん…ご無事です…か?」


比較的ダメージが浅く済んだホワイトは冷静に周辺の状況を視合う。


ブルー「はぁッ…!!はぁッ…!はぁッ…!…これが……街一つを灰塵に帰したという…魔の雷の…威力…。一部じゃなきゃ…とても……凌げな……かった…」

イエロー「…降って来るタイミングが……読めてなきゃ…ぶん殴れなかった…ぜ。…痛ッてぇ…。…くっ、右腕が…かなり焦げやがった…」

ピンク「うー…ピンクの魔力、ほとんど使い切っちゃった。…恐ろしい魔法だったの」

グリーン「…ぐっ。蹴飛ばした右脚を中心にかなり酷く火傷した…か。あの威力を思えば…この程度なら僥倖なんだろうけど…ね。はぁ、はぁ、はぁ…」

ブラック「こちらもグリーンと同様…です、ね。はぁ、はぁ、…右腕は上腕から動かせそうに…ありません……痛ッ!…拡散した電気で右足もしばらくは動かせそうに…」

レッド「無理やり撃ったにしちゃあ威力はあった…が…何か余計な力まで引き出しちまったのか…無茶苦茶疲れちまった。…反動で一歩も動けねぇ…」


防いだとは言っても相手は雷。弾かれ、斬り裂かれたとしても、拡散した強力な雷光の残滓たる電気はそれだけでも充分な殺傷能力を持った凶器だ。

余波によるダメージは思いの外大きく、辛うじて立っていたのは自分以外ではピンクだけであり、他のメンバーは少なからず火傷を負って片膝を付いているか消耗し切って倒れ込む寸前といった状態。
つまり、ホワイトとピンクの二人以外はルーフィシスの『倒した』の定義にこそ入らぬものの交戦の継続はかなり厳しい戦闘不能寸前レベルであった。


ピンク「うー…みんなボロボロ…なの…」

ホワイト「これは…まずいです…ね」

ルー「うん、戦況としては充分に覆せた、かな。ご教授その3の補足としてのその7。相手が強敵であれば強敵であるほど一発逆転の切り札となる大技、大魔法を有していると考えておくこと。…そして、それは切り札である以上は使い惜しみこそすれ、いざとなれば普通に『切れる』カード。そう易々と発動そのものを防げるというものでは無い…ってところかな」

ピンク「うー、考えておいても発動を防ぐのが難しいなんてご教授されたんじゃ困るだけだと思う。難しいしどうしようもないよ」

ルー「確かに、この辺りも経戦則とか事前情報がものを言うから現場での対応や対策はとても難しい話だけど…それでも、出来ないと命に関わるからせめて警戒だけは怠らない様に、…っていうのが今のお兄ちゃん達には限界かな?…さて、それじゃあ残ったご教授もちゃんと言えたし【サンダークラスター】も見事に戦闘不能者無しで防がれた事だし、終わりにしよっか」


キィンッ!と心地の良い鍔鳴りを鳴らして刀を鞘に納めるルーフィシス。
それは圧倒的優位に立ったにも関わらず、先の宣言通りに戦いを終わらせようという意思表示であった。


ホワイト「見逃してくれる…と言う事ですか?」

ルー「あの一撃で終わりにするって言ったでしょ?第一、私の『凶雷』の二つ名の代名詞とも言える大魔法が防がれたんだから負け扱いにされたっていいぐらいなんだから。…ちょっと悔しいけど」


頬を膨らませて子供らしい表情で拗ねて見せるルーフィシス。
あまり他人の事は言えないが、その幼さに対して備わっている凶悪な戦闘力が実にアンバランスな子供だな、とうみねこピンクは思った。


ルー「…さて、それじゃあそろそろうみねこセブンにとって最大の問題のご教授その8。連携による集団戦での強さに反して個人戦での個々の戦力には危ういまでの脆弱さがあること。複数同時攻撃の【サンダークラスター】によって『戦力の集束』を阻まれた結果が今の状況。…多分、単発で雷球を墜としてそれを七人全員で迎撃していたのなら、あの大きさでもお兄ちゃん達ならほぼ無傷で防ぐ事が出来ていたと思うよ」


最大の問題点と銘打ってルーフィシスはうみねこセブンの個人での戦力の弱さを指摘する。
それは以前から問題として上がり、七姉妹一人一人との戦いやこれまでの訓練によって少なからず克服されてきたものと思われていたが…ルーフィシスという強者から見ればそれはまだ解決したとは言い難い課題だと言う事だった。


グリーン「…やはり問題は防御力…なんだろうね。これまでも広範囲な範囲攻撃や強力な攻撃はホワイトのバリアやピンクの防御魔法を軸にして防がないとまともにダメージを抑えられなかった」

イエロー「武器の方は『いなずまのけん』なのに鎧は『かわのよろい』で盾は『かわのたて』ってところかよ。そりゃ確かにバランス悪ぃぜ」

ルー「そう言う事。幸い強力な装備を造り出せる技術はあるみたいだから、かさ張らない【ビームシールド】の類に防御魔法を掛け合わせる形で使える『盾』と私の【防護魔石】の『自動致命傷防御』みたいな『護り』の防御機能の取り付けと強化が理想的、かな?」

ブラック「『護り』の防御機能の取り付け…か。雷槍の余波さえ防げていれば僕だって無傷でまだ戦えたはずなんだ。…確かに欲しい機能です」

<font size=2>ブルー「…【スナイパー・イーグル】のカートリッジで魔石の代用は可能かしら?他には…試作品のデータの中に携行式の展開循があったわね…南條先生に開発出来るか聞いてみる価値はありそうだわ」</font>

ルー「ああ、そう言えばもう一つ、ご教授その9が出来るかな?戦闘中の五体のダメージ…特に四肢の怪我は戦力低下に直結するから応急処置は戦いながらでも出来るぐらい手馴れておいた方がいいよ」


そう言って右手一つでしゅるしゅるとダメージを負った腹部と左腕、左肩口に包帯を巻き付けた上で、三角巾で左腕を吊って応急処置を終わらせるルーフィシス。丁寧に添え木処置まで行った上で僅か8秒でその全行程を仕上げる手練の技は確かに交戦中ですら行えそうな神懸かった手際であった。


ルー「それじゃあルーはそろそろ帰ろうと思うんだけど…何か聞いておきたい事でもある?」

グリーン「それならキッチリと確認しておきたい事があるね。君はファントムには属していないと言っていたけど、どういう事なんだい?」


質問タイムとでも言いたげなルーフィシスのその言葉にグリーンが喰い付く。
ファントムでは無いという彼女は七姉妹達と比べると義理立てる事も無くいろいろと答えてくれそうだと思ったからだ


ルー「別に、そんなに難しい事じゃなくて簡単な話だよ。様々な利害や利権が絡み合う事で意見が対立すれば当然分裂するってだけのこと。私はお父さんの意見に賛成しているから…中立派ってところかな?過激派、改革派の集まりが『ファントム』で後は穏健派とか保守派って考えるなら基本的には日本の政治情勢と一緒だと思うよ」

イエロー「その割には思いっきり攻撃を仕掛けて来てるじぇねぇか。随分と苛烈な中立があったものだぜ」

ルー「むー。まぁ確かに、お父さんからはちょっと情報を集めて来いって言われてた程度だったんだけどぉ…その、あまりにも戦人お兄ちゃんが鍛え甲斐がありそうだったからつい何時もの癖が出たっていうか…」

レッド「…何時もの癖でボコられてる奴がいるって事かよ?随分と災難な奴がいたもんだなぁ…(大汗)」

グリーン「あはは…。どうやらレッドの才能が今回の戦いの要因になっちゃったとも言えるんだね。いっその事、無能だったらこんな大騒ぎにはならなかったのかな?」

レッド「…冗談で言ってるってのは分かってるし、間違っちゃいねぇんだろうけど…なんだか無性に悔しい気持ちになって来るのはなんでなんだ?」

イエロー「何で半泣きになってんだよ戦人?」

ルー「謎のトラウマに涙する戦人お兄ちゃん、やっぱり可愛い♪」

レッド「うるせぇよチクショーッ!」

ルー「あ、そうそう。私の雷撃魔法で施設にも少なからず被害が出ちゃったはずだから、これでも売って修繕費に充てといてよ」


そう言ってヒョイっと手の平に納まる程度の包みを身近に居たホワイトへと投げ渡すルーフィシス。


ホワイト「はい?えっと、何でしょうかこれって…あの…え?ええええええぇ!?」

グリーン「そんなに驚いてどうしたんだいホワイト?顔色も悪くなったみたいだけど…って……それって…」

ピンク「うー!色違いの綺麗な宝石がいっぱいなの!凄いの!」

イエロー「あー、祭りの時によくあるおもちゃの指輪に付いてそうなやつだなー……って…何か輝き方が…えらく半端ないような…」

グリーン「…多分…全部本物だね。この間寄った宝石店で見たダイヤの輝きとそっくりだよ。それと…見た物とサイズは全然違うけど…その赤いのはルビーだと思うよ」

レッド「じ、じゃあこれ…あいつが俺達を例えたブルーダイヤやイエローダイヤ…ブラックにホワイト、グリーンにピンク。そしてピジョンブラッドって名称のルビーってことなのか?全部ビー玉ぐらいのサイズなんだけど…いくらになるんだよこれ?!」

グリーン「し、修繕費用としては充分過ぎるみたい…だね、ははは…」


いまいち宝石の価値が分かっていない真里亞を除いて全員の表情が苦笑いとなる。
単純に考えて一般的に給料三カ月分と例えられる婚約指輪に付いているダイヤがせいぜい爪先ぐらいの大きさだ。つまり、その何十倍ものサイズを誇るダイヤが色とりどりに複数個ある、という訳である。


ホワイト「ど、どうしましょう!包みから出す時に素手で触っちゃいました!指紋が!指紋がぁッ!!」

ブラック「落ち着いてホワイト。変身しているから手袋越しだよ、拭けば大丈夫なはずだから」

ピンク「うー!ピンクはこのピンク色の石が気に入ったの!もうこれはわたしのなのー!」

イエロー「ちょ!?おいこらピンク!ビー玉じゃねぇんだから握るんじゃねえッ!痛む!割れちまううううぅ!」

ブルー「このくらいの宝石で狼狽えるなんて、みんななってないわね」

グリーン「と、取り敢えずはお爺様に預けてどうするか決めてもらおうか。多分、宝石商にもそれなりの伝手はあるだろうし…」

レッド「…なぁ…何で俺だけダイヤじゃなくてルビーなんだ?レッドダイヤだってちゃんとあるのによぉ…」

ルー「あはは、それはお兄ちゃんの精神がダイヤほど頑丈ってイメージじゃないからかな~♪それじゃあそろそろ」

ブルー「あ、ちょっと待ちなさい!ルーフィシス」

ルー「ん、まだ何か聞きたいことがあるの、うみねこブルー?」


ルーフィシスからの思わぬ撃破ボーナスで泡食っていたうみねこセブンの面々であったが、ブルーが今度こそ帰ろうとした彼女を今一度引き留める。
その表情は浮ついたものではなく真剣そのものだ。


ブルー「貴女は…自分を『中立派』だと言っているけど…この先、その『中立派』が人間に害を成す事は有り得ない、と断言出来るのかしら?」

ルー「……電子ハッキングをした時に貴女の詳細情報の全てを見せてもらったわ、ブルー…いえ、ヘンゼルを失ったグレーテル。貴女が気に病んでいる雷塵事件、それは確かに私が関わっているでしょうけど…それは貴女が思うようなものではないわ。もう少し、真実を見る勇気を持ちなさい」

ブルー「ッ!レッド、みんな!やっぱりこいつは生かしておけないッ!私達の情報をきっと根こそぎ盗んでる!私の『あの情報』は最重要機密扱いなの!この場で殺さないと…『ファントム』に全部知られる事になる!だから…!!」


ルーフィシスの言葉に激昂して銃を乱射し始めるブルーに戸惑うレッド達。
弾幕に晒されるルーフィシスは瞬時に鞘に納めた刀を取り出しその場から一歩も動かず右手一本で軽々と魔弾を弾いて冷めた目でブルーを見る。


ルー「うみねこブルー、このまま自身の心の闇に向き合えない様なら貴女は呪われたブルーダイヤになるよ」

ブルー「うる、さああああああいッ!!滅びろ『ファントム』の手先!喰らえぇ、【天使の幻想砕き】ッ!!」

ルー「…私は『ファントム』じゃないって言ってるのに…【雷光一閃】!」


下段から上段へと斬り上げられた刀の一閃がうみねこブルーの【天使の幻想砕き】の蒼き魔弾を一刀の元に両断する。
間髪を置かずに二発目のチャージに入ったブルーだったが…その攻撃が放たれる前にルーフィシスは現れた時と同じ様に青天の霹靂をその身に落としてその姿を暗ましていたのだった。


ブルー「逃げられたッ!?すぐに追跡をッ!!」

レッド「おいブルー!いい加減にしろッ!!」

グリーン「落ち着くんだ。彼女はファントムとは対立している立場だと言っていたんだ、そう簡単に情報を流したりはしないよ」

イエロー「そうだぜ。物騒で変な奴だったけど嘘吐きって柄じゃなかった!相手がどんな奴かちゃんと見とけよ!」


ルーフィシスを倒す事しか考えていないブルーを見兼ねてレッド、グリーン、イエローが止めに入る。
ブルーのダメージはいくらか軽減されているとはいえ決して浅くは無いのだ。


ブルー「殺す!…あいつらは…一匹残らず駆逐しないと駄目なのよおおおおおぉおおぉッッ!!」


自身の身も顧みずに戦おうとするそのバーサーカーを彷彿とされるブルーのその姿はレッドやグリーン達にとってはベアトとの戦いの時や出会った頃の苛烈な発言の数々を思い起こすには充分なものだ。


お互いがお互いの事を良く知らなかったから。


ベアトとの戦いが止まらなかった原因として思い至ったその言葉が不意に思い出される。
ルーフィシスが知ったという最高機密扱いのブルーの詳細情報。
それが彼女をこれ程までに激しく怒り狂わせた原因なのだと察した時、レッドは改めてうみねこブルーの事もいつかは知らなければならない、と思った。



【エピローグ】


戦人「…………雷雨…か」


ルーフィシスとの激闘から数か月後の夜。
日付けが変わろうかというその時間帯、戦人の家の周辺地域は激しい雷雨に見舞われていた。

空が輝く度に、稲妻が大地に迸る度に、轟音が大気を震わす度に、戦人の胸には彼女の姿が思い起こされていた。

鮮烈なる雷光をその身に纏った幼い少女。
たった一日の、一期一会とすら思える出会いの中であまりにも多くの事を学ばせてくれた師と仰ぐに値する少女。

あの出会い以来、雷鳴の轟く夜には必ずと言っていいほど目が覚めてしまい、窓の外を眺めて彼女の姿を探してしまう自分が居る。


あの教えの数々はその後の戦いで大きな力となった。
思い出されたその言葉によって何度も何度も命を拾う事になった。

そして…うみねこブルー…いや、『右代宮縁寿』と分かり合う為の力にもなり、
再会したベアトリーチェと心を通わせる上でも大きな役割を果たしていた。


『ファントム』との戦いはまだ終わってはいない。
…だが、何を成せばいいのか、先は見え始めている。

フラグベルトの一族はクレルやウィラード達の組織とはまた違った組織に属するらしく、ファントムとの抗争が激化しつつある今、その生存も定かでは無いらしい。


全てが終われば…また会えるのだろうか?

今ならあの日、『ホイール・オブ・フォーチュン』の観覧車に二人で乗った意味が分かる様な気がする。
譲治兄貴と紗音ちゃん。
ロノウェのおっさんとワルギリア。
そして…俺とベアト。

どうにもあの観覧車は二人で乗ると深い絆で結ばれるという特殊効果がある様だ。
…無論、俺とルーフィシスの場合は恋愛感情としての結び付きでは無い、と否定はしておく(苦笑)


ファントムとの戦いが終わり、何時か平和になったら、また会いたい。
今度会う時は、お互いに隠し事なく、心からあの遊園地を楽しみたい。

ひと際大きな轟音が響き渡り、戦人の家をビリビリと震わせる。
かなり近くに落ちたのだろう。窓の外に見える丘の上の木にうっすらと黒煙が立ち昇っているのが見えた。

そして…その黒煙の脇に…蒼く輝く髪の少女の姿が見えた。


戦人「ルー…フィシス?」


呟いたその一言が聞こえたのか、次の瞬間には再び稲光と共に轟音が轟き、丘の上の木の一本が焼け焦げながら真っ二つに裂けて倒れる。

黒煙の脇に見えていた少女の姿はもうない。

再会にはまだ早い。そう言いたかったのだろうか?

…そう…だ。
その通りだ。
戦いはまだ終わってはいないのだ。
感傷に浸っている場合ではないのだ。

今はまだ、全てが終わった後の事を考えるなどおこがましい事だったのだ。
…やはりルーフィシスと言う少女との関係は師弟というものに近いのだろう、と思い知って苦笑する戦人。

気持ちを落ち着かせてからベッドに潜りこんで明日の特訓に備えようと眠り直す。
『ファントム』との…ミラージュとの決戦の日は…そう遠くないのだから。



『雷鳴の轟く夜に』  終



『雷鳴の轟く夜に Tips』 へ続く

Re: 番外編 - KENM

2012/09/09 (Sun) 22:10:25

※この番外編は26話の頃を想定しています。可能な限り本編の展開に近付けて構成していますが以降の物語が同じ流れになるとは限りませんので御了承下さい。




<font size=5>うみねこセブン 番外編 雷鳴の轟く夜に</font>



ある日の朝、右代宮戦人は遊園地『Ushiromiya Fantasyland』の礼拝堂の椅子で静かに佇んでいた。
『ファントム』との…いや、『ベアトリーチェ達』との決戦を終えて以来、数日に一度は彼女と初めて出会ったこの場所で、静かに時を過ごすのが日課となっていたのだ。

…決していい意味での日課では無い。
また彼女がひょっこりと現れるのではないかとの期待からだった。

都合の良い期待な上に益体も無い話だ。
最後という最後までお互いの正体を知らなかった事とはいえ…彼女との死闘を演じ、倒した上で生存と再会を望んでいるのだから。

…もし、仮に現れたとしても、その時自分は彼女とどう接すると言うのか?

もう出会ったあの頃には戻れない。
出会えた事自体が悲劇となってしまった今の彼と彼女では、再会すらも新たな悲劇の始まりにしかなり得ないのだから…。


??「…ねぇお兄ちゃん、『ハロウィーン・ミラー・ハウス』って、どの辺りにあるんですか?」

戦人「あん?…って、何だ子供か」


たどたどしい口調で声を掛けられて椅子の隣を見てみると10歳ぐらいの小さな女の子の姿があった。
ランドセルでも背負っていればそのまま小学校への通学中かと思うような白のブラウスに赤いスカート姿であったが、ポニーテールに後ろでまとめてある蒼く薄く輝いて見える独特な髪の色に深い真紅の瞳から外国の娘と思えた。


戦人「え、えーっと、英語…かな。それともフランス語とかじゃないと無理か?」

??「もしもーし、お兄ちゃん、普通に日本語で大丈夫だよ。さっき声を掛けた時もちゃんと日本語だったでしょ?」

戦人「え?あ、そうだっけ?悪ィ、ぼーっとしてたんもんだからつい…」

??「こんな時間にこんな所でぼーっと…。ねぇ、お兄ちゃんってもしかしてお家が無い人なの?」

戦人「は?いやいやいや!そんな事はねぇぞ!第一、遊園地なんて無料で入れるもんじゃねぇんだし閉園時間だってあるんだからこんなところで一夜を明かしたって訳はねぇから!!」

??「ふぅん、そうなんだ。でも、じゃあなんで施設を回って遊びもしないでこんなところで座り込んでるの?それだったら別に公園のベンチとかでもいいと思うんだけど?」

戦人「……。あー…確かにそりゃ正しい分析だな。ちょっとこの場所に思い入れがあってな、…誰かに会えるんじゃないかって、そう思って来ちまうんだよ」

??「そうなんだ。その誰かって、お兄ちゃんにとってとても大切な人だったんだね。今にも泣きそうな…凄く寂しそうな顔になってるよ?」


少女の真紅の瞳が戦人の横顔を覗き込む。
子供ならではな無邪気な鋭さがズキリと戦人の胸に突き刺さる。
鏡を持ち歩く習慣のない戦人にとって自分がどんな表情でこの場所で待ち続けていたのか、どんな思いで此処に来ていたのかのその全てを見透かされた様に感じての事だ。


戦人「………。悪いな、自分でも気付いてなかったみてぇだが…どうも俺、余裕がねぇみてぇだ。話し相手が欲しいんなら誰か他の人を当たってくれねぇか?」

??「他の人って言われても…この礼拝堂にはお兄ちゃんしか居ないし…ルーは話し掛けるのって結構苦手だし…」

戦人「そうなのか?こう話していて別に苦手って印象は受けねぇんだが…俺なら大丈夫ってのか?」

??「うん。お兄ちゃんに似た年頃の兄姉がいるからお兄ちゃんには話し掛け易かったの」

戦人「そう言うもんか?…って、おい!何だよその上目遣いポジションは!?」


何となくの勢いで雑談に入っていた隙を衝く様に戦人の右腕を掴んで右肩の腋下辺りから見上げて来る少女。


??「ねぇ、お願い。ルーはこの遊園地に来るのって始めてなの。だ・か・ら、案内して欲しいの、お兄ちゃん♪」


大きな瞳を潤ませている上に高さ的にほのかに香る髪のシャンプーの香り、捨て犬の懇願の尻尾を思わせるポニーテールという幼女ならではな魅力(?)をパーフェクトに引き出してお願いして来る少女。

先程の兄姉が居ると言う話から俺くらいの年上の兄をこうやって籠絡しているんだろうなぁ…と直感的に察してしまったのだが……だからといって保護欲に<s>萌える</s>燃える全国数千万のお兄ちゃん達には決して抗えるレベルの必殺技では無かった。


戦人「仕方ねぇ、こう見えても案内なら縁寿や真里亞で慣れてるんだ。こうなったらこの遊園地を余すことなく満喫させてやるぜええッッ!!」

??「わぁい♪ありがとう、お兄ちゃん♪」


案内の了承を得てはしゃぐ少女の姿に頬が緩む戦人。
昏く深く沈んでいたはずの心が何時の間にか少女に乗せられる形で軽くなっていた事に気付き、戦人は驚く。
この娘は子供ならではな心の踏み込み方が非常に上手いと言うか…心の殻を見事に切り崩される形で突破された様な……そんな不思議な印象を受けつつ、戦人は一度請け負った以上は、と遊園地を案内する事にしたのだった。


戦人「そう言えば、まだお互いの名前すら聞いてなかったよな?俺は右代宮戦人。戦に人と書いて『ばとら』って読むんだ」

??「宜しく、戦人お兄ちゃん。私はルーフィシス。ルーフィシス=フラグベルトって言うの♪」

戦人「るーふぃしす?やっぱり外国人なのか?」

ルー「うん、一応はそう言う事になるのかな。長い名前だから家族や友達とかはルーって愛称で呼んでるの」

戦人「じゃあ俺も友人達に倣ってルーって呼ばせてもらうぜ。…それにしても人の事は言えねぇが変わった名字だなぁ」

ルー「そう?右代宮ほどじゃないと思うんだけど?」


お互いの名前を名乗り合いながら遊園地をぶらぶらと歩いて回り始める戦人とルーフィシス。
案内を頼んで来た時点で気付いておくべきだったのだが、聞けばルーフィシスは一人で遊園地に来ているとの事だった。
いくら迷子案内やスタッフが充実している遊戯施設の中とは言え、不慣れな場所に子供一人で来させると言うのはどうかとも思ったが…当の本人が楽しんでいる様子だったのでそれは口には出さない事にした。



一言で言ってルーフィシスという少女は非常に活発で無邪気な少女であった。
『ハロウィーン・ミラー・ハウス』では何度も壁に激突しながらもひたすら突っ走って好タイムでゴールし、『ウエスタンヒーローズ』では二丁拳銃で照準無視で撃ちまくって「銃撃数」のコースレコードを更新、『ガァプのティーカップ』では遊具が回り終わるまで絶えずはしゃぎ続けるといった大暴れっぷりであった。





戦人「子供はエネルギーの塊って言うけど…ルーは縁寿や真里亞と比べても別格だなぁ」


もう一歩も歩けないと膝が悲鳴をあげる程くたくたになって『GO田のマジカルレストラン』の屋外席に座り込んでジュースを飲みながら一息つく戦人。
縁寿や真里亞をも上回ると評された当のルーフィシスは汗一つ掻かずに涼しげな顔色で今は『セブンズバトルコースター』のジェットコースターを全力で楽しんでいた。


????「随分と楽しそうだな、右代宮戦人」

戦人「あん?あんたは確か…七姉妹の四女のベルフェゴールだっけか、なんでこのレストランでウェイトレスを?」

ベルフェ「郷田に臨時のヘルプを頼まれたのだ。それで今日はここで働いていたのだが…お陰でお前に幼女趣味があったと知れたわけだ。ルシ姉の反応が実に楽しみだ、ふふふ」

戦人「女三人寄らなくても姦しいなぁお前等は。それに、ルーとはそんな危ない関係じゃねぇよ。遊園地を案内して欲しいって言うから色々と見せてやってんだ」

ベルフェ「ほう、あの娘はルーという子なのか。特徴的な髪の色だから此処からでも良く見えるが…何とも元気いっぱいな子供らしいな」

戦人「ああ。こっちは朝から引っ張り回されてもうへとへとだってのに…あいつはちっとも疲れた様子がねぇんだ。外国の子ってのは日本人の子供とは体力まで根本的に違うのかねぇ?」

ベルフェ「それほど極端な差があるわけでは無いとは思うが…国や地域による生活環境での差はそれなりにあるのかも知れないな。どの辺りの出身の子なんだ?」

戦人「どの辺りかは聞いてねぇな。フラグベルトって名字はどの辺りの国にありがちなんだ?欧州系か?」

ベルフェ「…フラグベルト…だと?あの髪の色でフラグベルトのルー……まさか」

戦人「おっと、もうこんな時間か。そろそろジェットコースターも終わりだろうし、戻って来たら家に帰してやらねぇといけねぇな。じゃあな、四女の姉ちゃん」

ベルフェ「ッ!ちょっと待て戦人!あれは…」


もうじきジェットコースターから戻ってくるルーフィシスを迎える為にレストランを出る戦人。最後にベルフェが何かを言い掛けていたが、別のお客に注文を頼まれる形でその言葉は遮られていた。

気が付けば辺りはすっかり日が沈み、夕暮れ時となっていた。
ジェットコースターも今のが最後の便だったらしくルーフィシス達が降りるのと同時に係員がチェーンを張って閉鎖し、片付けの準備に入る。


ルー「あー、楽しかった。安全バーとか足場ってもっと小さいほうが面白いのにねぇ?ぶらーんってお空で宙吊りになる区間があったらもっと良いと思うのに」

戦人「じ、冗談じゃねぇ!落ちる!そんなことしたら落っちまうだろおおおぉッ!!」

ルー「あはははは、お兄ちゃんって高い所駄目だったよね。そういうところって可愛いなぁ」

戦人「おいおい、年上の男に可愛いなんて言うんじゃねぇよ」

ルー「ごめんなさい。でも、多分戦人お兄ちゃんが可愛いと思っているのは私だけじゃないと思うよ?」

戦人「う…。やっぱりそう思われてんのかなぁ…」


譲治兄貴や朱志香からもやっぱりそう思われてるんだろうなぁ…と、思い至る点が多くて落ち込む戦人だった

戦人はルーフィシスにそろそろ帰るよう提案したがルーフィシスは「折角だから…」、と最後に『ホイール・オブ・フォーチュン』の観覧車に乗りたいと頼んできたのだった。
あの観覧車の最上部からは見事な夜景が見える事は戦人も知っていたので今日の締め括りとしては悪くない、とその話に乗るのであった。


ルー「うわ~~~~~、綺麗な夜景~~♪」

戦人「おう!この観覧車からは遊園地も一望出来るからな~。今日回ってきたアトラクションもほとんど見えるんだ」

ルー「あ。あの大きな工事現場って、お城の跡地だったんだ」

戦人「……ああ。ちょっと大きな地盤沈下で崩落しちまってな。城壁の部分とか…まだまだ解体中なんだ…」

ルー「……ふぅん、地盤沈下…ねぇ。一体何十メートル崩落したんだか。地下に大クレーターでもなきゃああはならないでしょうに。それとも、そんな大穴が出来ちゃっただけの大爆発でもあったのかな…。ふふふ、なかなか派手な事するじゃない」

戦人「………え?」


ほんの一瞬、戦人はルーフィシスの表情に背筋が凍る恐ろしさを感じ取る。
城の崩落現場を見るその姿は破壊の爪痕を憂える者の姿などでは無く、嬉々として愉しんでいたアトラクションの数々の中でも一度として見せた事のない冷酷な冷笑であったからだ。


戦人「…お…おい、ルー…」

ルー「ん?ああごめん、何でもないよ。ちょっと見て見たかったなぁ~、って思っただけだから」

戦人「み…見たかったってお前…」

ルー「あはは、冗談だって。それにしても…この観覧車に戦人お兄ちゃんと一緒に乗れるなんて…色々と面白い事になりそうだなぁ♪」


話題が一転して子供らしい笑顔に戻るルーフィシス。
雰囲気が一気に元に戻った事もあって戦人は困惑を覚えたが…無理に神妙な雰囲気に戻る必要は無いと判断して振られた会話に乗る事にする。


戦人「は?…あ、あぁ?俺とお前で乗ると何かあるってのか、この観覧車って?」

ルー「それなりに面白い曰くがあるってところかな?あはは♪」


意味深な笑顔を戦人に向けつつ隣に座り込んで腕を絡ませて来るルーフィシス。
やはり縁寿や真里亞と比べると位置取りや仕草に計算された魅力があり、見た目の年齢以上の『妖艶さ』が見え隠れするのがこの娘の特徴だ。
戦人は「幾らなんでも俺にそんな属性は無いはず…」、そんな必死な葛藤に苛まれつつも、何とか観覧車が無事一周を終えるまで、何事も起こさずに耐え抜く事に成功する。
「ちょっと残念…」と、誘惑に失敗したルーフィシスは少しだけ悔しそうな表情を見せつつ、当初の予定通りに帰路に着く事になった。


戦人「随分と遅い時間になっちまったな。家まで送ってやった方がいいか?」

ルー「ううん。後は適当にどうにかするから大丈夫。じゃあ、また会おうね、戦人お兄ちゃん」

戦人「ああ、またなル―」


遊園地の出入り口で手を振り合って別れを告げる戦人とルーフィシス。
戦人はそのまま帰ろうかとも思案したが…何となく今朝の礼拝堂の椅子へと戻る事にした。

この時間帯からではどうせ帰っても数時間の内に夜の戦闘訓練の為にこの遊園地に来る事になるのだ。なら…このまま閉園時間まであの場所でひと眠りするのもいいだろうと思ったのだ。



【アイキャッチ】



ルーフィシスと別れてより30分後。
礼拝堂に辿り着いた戦人は変身用のウォッチのアラーム機能を2時間後にセットしてからごろりと椅子に横になって眠りに入る。
楽しくもあったが疲れもした今日一日を思い出しながら数分の後には微睡み始めていたところだったが…


戦人「うおぁッ!!?な、何だァッ?!!!!」


激しい光と轟音が礼拝堂の外に轟きその微睡みを一瞬にして覚醒させる。
礼拝堂を飛び出した戦人は礼拝堂前に広がる広場の一帯を見回すと…10mほど前方に立ち込める煙と幾つかの発火の跡が見て取れた。
青天の霹靂によるものであった。


??「…ふふふ、てっきり遊園地の外で再会する事になると思ってたのに…此処に戻って来てたんだ。探しちゃったよ、戦人お兄ちゃん♪」

戦人「なッ!?お…お前、ルー…フィシス…か??!」


落ちた雷の残滓と思しき雷光をその身に絡ませながら立ち込めていた煙から現れたのはほんの数十分前に別れたルーフィシスであった。


ルー「あはは、ビックリしてるビックリしてる♪ターミ○ーターの登場だとでも思った?折角だからインパクトが出る様にちょ~~と演出を真似てみたんだ~♪」

戦人「インパクトってお前…その、何だ。マジシャンの見習いか何かだったのか?」


あまりにも予想外かつ突然の再会に混乱を隠せない戦人。
そんな戦人に満面の笑顔を向けてからふわりっと、ワルツを踊る様にその身を回転させると同時に服装を一新させて見せるルーフィシス。
全身で小学生を体現していたかのような控えめな服装から、下地にピンクの服に深い紅色の長いコート。その上にRPGゲームの騎士や剣士を思わせるプレートアーマーとマントいう奇抜な姿へと着替えて見せていた。


戦人「すげぇな。目の前で一瞬で服装が変わっちまったのにどうやったのか全然分からなかったぜ」

ルー「あっはは。お着替えの決定的瞬間を必死で見ようとしてたんだったら残念でした♪」

戦人「そ、そんなつもりはねぇよ!と言うより、目の前でいきなり着替えたのはお前なんだから変な疑惑を持たれる言われは断じてねぇぞ!!」

ルー「えー。そうなの?」

戦人「そうだよ!って、それよりもだ。夜遅くなって来たから帰らしたってのに、何で戻って来てるんだよ?」

ルー「…ふふふ、それは…ねぇ、今日一日遊園地を楽しく案内してくれた戦人お兄ちゃんと、もうひと遊びしておきたいと思って…ね?」

戦人「もうひと遊び?おいおい、さっきの観覧車で最後だって言ったろ?」

ルー「ねぇ、戦人お兄ちゃんって…巷で有名な『うみねこレッド』でしょ?」

戦人「なッ!?……何の事…かな?…いっひっひ」

ルー「んふふ~♪誤魔化そうとしても無駄だってば。ルーにはねぇ、ちょっと特別な特技があるの」

戦人「特別な…特技?」

ルー「うん♪ルーにはその人が持つ『潜在能力』の規模を視る事が出来るの♪磨き上げればどれぐらいの宝石になるのかを把握出来る宝石の鑑定士って表現の方が分かりやすいかな?」

戦人「どのぐらいの宝石になるか…ねぇ。視えるって割にはずいぶんと曖昧って気がしねぇでもねぇが?」

ルー「確かに一般的な人達を対象にしたら路傍の石もいいとこだから甲乙の付け様も無くて大した効果も無いんだけど…お兄ちゃんの『それ』は今まで私が見た事も無いぐらい大粒で稀少なピジョンブラッド級だよ。この遊園地…ううん、この地域一帯でそんな異彩を放つ原石なんてうみねこセブンの七人の内の誰かぐらいしか考えられない」

戦人「そりゃあ…随分と俺を高く買ってくれてるってのは悪い気はしねぇが…それで俺がうみねこレッドだなんて決めつけられるのは暴論で………ッ!!?」


ルーフィシスの言を如何に反論しようかと誤魔化しに入っていた戦人の表情が固まる。
少女の紅の双眸が一切の反論を受け付けぬだけの確信に満ちていた事もあったが、それ以上に何時の間にかその左手に握られた『もの』が全ての思考を停止させていた。


……『刀』、だ。
薄い紫色の鞘に納められていてその中身が本物か否かは傍目には判別不能であったが、これまでのファントムとの戦闘経験で培われてきた危機管理能力が、それを紛れもない『本物』だと警鐘を鳴らしていた。


戦人「おいおい…何でそんな物騒な物を持ってるんだよ?!冗談にも程が…」

ルー「…戦人お兄ちゃん、ルーは10秒後に仕掛けるつもりだから変身しておかないと……一瞬で死ぬよ?」

戦人「ッッッ!!?」


スゥ…と無造作に構えられた居合の構えを前に戦人の全身に悪寒が奔る。
あまりにも自然体な構えの移行とそれに伴って視認出来るほど集束され始める魔力の奔流。
そのプレッシャーから来た大気の震えはそのまま遊園地に設置された対ファントム用の緊急避難警報装置を発動させて瞬く間に遊園地全体をファントム襲来時の『戦闘状態』へと導く。
宣言された十秒後にそれだけの一撃が放たれると言うのならば…今のままでは間違いなく死ぬ事になる。


戦人「くそッ!コアパワー・チャージオン!チェンジレッドッッ!!」


ルーフィシスの構えのプレッシャーに気圧され急かされる様にうみねこレッドへと目の前で変身して正体を晒す戦人。
自らがうみねこレッドである事を認めざる負えない行動だったが、それ以外に選択肢は無かったと自身に言い聞かせつつ次なる行動へと移る。
変身を終えたレッドの行動は、まずは退避の一手であった。


充分な距離をとって相手の間合いから出てしまえばこの突発的な戦闘状態を回避出来ると判断してのことだ。


ルー「遅い!【雷光一閃】ッ!!」

レッド「なッッッ!?がはッッ!!」


発生した初手の攻防は僅かゼロコンマレベルの瞬きの一瞬。
間合いから退こうと後退していたレッドが瞬時に間合いを詰められてルーフィシスの居合の一閃の直撃を受けて左後方へとアスファルトを削りながら吹き飛ばされるという最悪の形で終わっっていた。


レッド「ごほッ!…な…なんてスピードとパワー…だ。そんなちっこい体のどこにそんな力が…」

ルー「咄嗟に【ブレード】を出して防御したみたいだけど必殺性の高い居合に受け太刀は良くないよ。スピードで刀身ごと斬り飛ばされる場合もあるし、今回みたいに勢いを殺し切れなくて多大なダメージを負う事があるからね」


ところどころに裂傷を負って立ち上がる事もままならないレッドを悠然と見下ろしながら淡々と先の攻防の問題点を語るルーフィシス。

…レッドは事此処に到ってようやく目の前の相手が幼い少女などではなく、超一流の『戦士』であることを思い知る。


レッド「…お前は……ファントムの一員なのか?」

ルー「ううん。確かにルーは人間じゃなくて魔界の住人だけど、ファントムとは別の組織の一員なの」

レッド「別の組織…だったら、何故俺を狙う?」

ルー「ルーは別にそんなつもりじゃないよ。戦人お兄ちゃんをちょっと鍛えてみようと思ってるだけなんだから」

レッド「鍛える…だと?」

ルー「うん。これまでの戦闘情報だとうみねこセブンの個々の戦力ってまだまだだって印象があるの。で、今の一撃で試してみたら案の定ってところかな?」

レッド「ッ、今のは油断…だ」

ルー「尚の事減点。死闘に次なんてものはないんだよ?…う~~~ん、これはもうちょっと気長にギアを入れてもらうところから入らなきゃ駄目かぁ…。仲良くし過ぎちゃったのかなぁ」

レッド「仲良く…か。はは…、今日一日…一緒に楽しくはしゃいでいたが…ありゃあ全部演技ってことかよ?」

ルー「そうだッ!…って答えたらキレて本気になるのかな~とは思うんだけど…嘘は良くないからそうでもないって言っておくね」

レッド「…ふざけてるのか」

ルー「友人よりもまずは仕事優先って話なだけだよ。そこそこ回復はしたみたいだから次は中距離戦のテストでもやってみようか!」


間合いを先程と同じぐらいまで調整してから左手をかざして魔力を集束させ始めるルーフィシス。
数秒で集束された魔力が電気を帯びて輝き始めた時には居合の一閃に勝るとも劣らぬ威力があるとレッドは悟る。


ルー「防いで見せてよ、お兄ちゃん!雷撃魔砲、【サンダースマッシャー】ッ!!」

レッド「ッ!くっそおおおぉッ!撃ち砕けッ!【蒼き幻想砕き(ブルー・ファントムブレイカー)】ッ!!!」




蒼き魔弾と雷撃の魔弾が相互に食い潰し合ってひと際まばゆい光を放つとともに消滅し合う。


ルー「相殺…か。その武器の特殊性も大きいけどやっぱり中、遠隔攻撃は今でもかなりのものだね」

レッド「そういつまでも余裕でいられると思うなよ!反撃開始だッ!!」


中、遠距離での戦闘を活路と見たレッドの判断は素早く、すぐさま【ガン・イーグル】で蒼き魔弾を連射してルーフィシスへの攻勢へと転じる。


ルー「あっはは、やっぱり優しいに『過ぎる』が付くねぇ、戦人お兄ちゃんは♪明らかに狙いがあまい…よッ!」

レッド「ツッッ!??」


眼前の出来事に再び瞠目する事を禁じ得ないレッド。
狙いがあまいと断じたルーフィシスは【ガン・イーグル】より放たれた蒼き弾丸の弾幕に飛び込む様にレッドへと直進して間合いを詰めて来たのだ。

頭部へと強襲した一撃は首をひねる様にして躱し、
腹部へと強襲した一撃は腰を捻る様にして躱し、
脚部へと強襲した一撃は舞踏の様にその身を一回転して翻しながら躱し、

これと言ったロスも無いまま最短距離を疾走してレッドの眼前にまで迫って見せたのだった。


ルー「刺突、袈裟斬り、逆袈裟、その反応速度じゃ三度は終わってたよ?」

レッド「くッ!…うおおおおおッッ!!」


レッドの側面を通り過ぎるその去り際に血の気が引く言葉を残してそのまま走り抜けてレッドの後方数十メートルの所で踵を返して再び相対の態勢に入るルーフィシス。

単純な距離だけに留まらず、銃撃でさえもものともせずに躱して襲い掛かってみせたルーフィシスに戦慄するうみねこレッド。

ロノウェ達ファントム幹部…いや、こと接近戦においてのその戦闘能力は最強の敵であったベアトリーチェさえも上回るのではないだろうか?


ルーフィシスは依然として無邪気に微笑みかけてきていたが……それがレッドには死神の微笑にすら見える程の恐れを抱かされていた。


ルー「お兄ちゃん、私が怖い?でもね、それで心が折れちゃうようなら……それ以上は決して強くはなれないよ?」

レッド「くッ…。距離をとるにしても、あのスピードをどうにかしねぇと…」

ルー「どうにか出来そう?体力がある内じゃないと思い付いても実行出来なくなっちゃうんだから、チャンスはもう数えるほどしか……ッ?!チィッ!!」

レッド「ブルー!?」

ブルー「う…嘘でしょ!?そんな避け方が…可能だと言うの?!」


ルーフィシスの背後に一瞬にして現れて斬撃の奇襲を放って見せていたブルーは驚愕した。
斬り付けたはずのルーフィシスがバッタの様に膝が身体の上に来るほど深く前屈みにしゃがみ込んで背後より両断を狙った攻撃を躱して見せたのだ。
両の足裏は地に付いたままの低重心で咄嗟にそれを行うなど、半端では無い柔軟性だ


ブルー「ッ?!蹴りが横から…がはッッ!!」

レッド「馬鹿な!なんだあの蹴りは!?」


低重心で前屈みにしゃがみ込んでいたルーフィシスの身体がブレたかと思うとブルーの左脇腹に強烈な衝撃が奔る。
地を這う様な低姿勢状態から全身を独楽のように回転させて放たれた強烈な蹴りが死角から深々とブルーに炸裂していたのだ。


レッド「ッ!下がれブルーッ!」


【ガン・イーグル】を連射してブルーの後退を援護するレッド。
ルーフィシスはその援護射撃を踊る様に軽々しいバックステップで躱しつつ、レッドとブルーの両名を正面に捉えて対峙の態勢をキープする。
ブルーは蹴りを受けた脇腹を押えつつ、レッドに合流して戦闘態勢を立て直す。


ブルー「ごほっ、ごほっ!…不覚…だわ…」

レッド「おいおい、大丈夫なのかブルー?」

ブルー「…多分…肋骨が何本かが折れているでしょう…ね。はぁ、はぁ、…外見は子供だけど…今まで戦ってきた敵の中でも間違いなく……はぁ、最強クラスの相手だわ」

ルー「…ふぅん。うみねこブルー…か。原石としてはかなり研磨の進んだブルーダイヤってところみたいだけど…不純物が混ざらないかが不安って感じかな?」

ブルー「不純物とはまた随分と…はぁ、失礼な事を言ってくれる…じゃない…はぁ、はぁ…」

ルー「喋るのも随分と辛そうだね。…レッド、うみねこブルーのダメージは肋骨数本だけで済んでないよ。決着を急いで早めに処置をしないと危ないかも知れない」

レッド「なん…だと?お、おい、本当なのかブルー?」

ブルー「…ッ。ええ、あの子の言う通りよ。…はぁ、さっきの蹴り…くらった時につま先からスタンガンみたいな強力な電流が…はぁ、体内に流れ込んで来たの。…多分それで臓器の方にもダメージが…はぁ、はぁ、…」

ルー「【刺電蹴】、蹴り足に集束させた電撃が体内で炸裂する蹴り技だよ。ほとんど防御力無視で効果があるから変身してても意味を成さなかったみたいだね」

レッド「………逆鱗に触れたぜ……てめぇ……」


…。
…倒す。

これまでの戦いでルーフィシスと言う少女の桁外れの戦闘力を散々思い知らされ殺されかけてきたが…それでも…どうしても本気で倒そうという意志は持ち切れなかった。

今日一日だけの話だったとは言えその出会いから戦いへと至るまでの過程はあまりにもベアトリーチェと似通っていたからだ。

何者なのかも知らずに出会い、日が沈むまで仲良く遊び合った存在が…夜の帳が落ちると共に、その正体を明かして牙を剥いて襲い掛かって来た。

嘘だと思いたかった既視感の思いの深さ故か、自身の生命の危機に際してすら尚、全力で戦う事をよしとせず、押し留めていたのだ。

だが、


仲間の命が危機に晒されたこの状況で惑う事など断じてあってはならない!


レッド「ルーフィシス=フラグベルトォッ!!ここからは全力勝負だッ!覚悟しろォッ!!」

ルー「あっははははははッ!いいよ、やっとその気になったね!戦人お兄ちゃんの本気がどの程度になるのか、しっかり試させてもらうよ!!」


【ガン・イーグル】をこれまでで最高の速さの連射で、敢えて間合いを詰めながら撃ちまくるうみねこレッド。
射撃間隔が短くなっているにも関わらず、照準精度は狙撃手並みにまで向上していたその斉射の前に後退しつつ刀で魔弾を迎撃すると言う初めての守勢に回らさせられるルーフィシス。


ルー「……ッ。これは…思ったより…」

レッド「なるほど。そういう事だったのか」


本当の意味での攻勢に転じれた事でレッドはようやくルーフィシスと言う少女の戦闘力の特性を理解する。
高速剣技を主軸に据えつつ多様な攻撃手段でこれまでレッドを翻弄してきた彼女であったが…逆を言えばそれこそが彼女の戦闘力の『最大値』だったのだ。

何という事は無い。相手が最も得意とするフィールドで真っ向勝負を挑めば相手の実力が最大限に発揮されるのは当然の帰結。ましてや、こと攻撃において特化した異才を持つ相手ともなればその際の自身の致命的なまでの不利は必然である。

ルーフィシスは体術、剣技、電撃魔法を得手とし、クロスレンジからロングレンジに至るまであらゆる攻撃オプションを持つ強力なアタッカーだ。

スピードも尋常では無く半端な間合いでは瞬時に詰められて得意な距離に引き込まれるのがオチだ。そして、何よりもその速さによって攻撃がまず『当たらない』、のだ。

当たらない攻撃に戦力を振り分けるのは無意味な行為。
必要性を感じぬ以上、その護りは限りなく薄くなっていくのは道理であり、自然な流れだ。


ルー「痛ッ!?頬が切れた?…掠ったのか……痛ッ!」


一つ、また一つと蒼き魔弾がルーフィシスのその身を掠めながらその至近をすり抜け始める。
決定打となるには数百からの当たりを要するであろう程度のダメージだが、これまで圧倒的に優勢だったルーフィシスを焦らせるには充分な効果があった。


ルー「ッ!いい加減…これ以上は当たってあげられないよッ!!」

レッド「消えた?!いや、そこだアァッッ!!」

ルー「しまったッ!読まれて…ガハッ!!」


飛び退く様にその身を翻して【ガン・イーグル】より【蒼き幻想砕き】を短時間で可能な限り集束させて撃ち出すレッド。
その高威力弾は一瞬にしてレッドの視界より消え去り背後に回り込んでいたルーフィシスの腹部に吸い込まれる様に直撃する。

攻撃が確実に当たらない位置で尚且つ相手に強烈な一撃を加えられる場所への高速移動。
焦りで単純化したルーフィシスの思考を思えばそれはレッドの背後である事は冷静であれば充分に予期して狙い撃てるピンポイントであった。


レッドの起死回生の直撃弾は小柄なルーフィシスを数十メートルに渡って吹き飛ばし、路上に造られた花壇の煉瓦壁に背中から激突させて片膝を衝かせるまでの会心の一撃となる。


ルー「…う…ぐッ……」

レッド「はぁ!はぁ!はぁ!…いくら動きが速くても、どう動くか読めれば何とかなるもんだ…なぁ」


吹き飛ばされて刀を支えに立ち上がろうとするルーフィシスを視認しながら呼吸を整え【ガン・イーグル】のカートリッジ交換を素早く行うレッド。
充分な手応えはあったが、これではまだ終わるまいと次の先手を打つ為の行動だったのだが…


レッド「うわッ?!な…何だ、これは!?動けねぇ!!?」


地中より突然現れた雷の帯によってその身を拘束されてしまうのだった。


ルー「…ふふふ、ルーちゃんからのご教授その1♪クリーンヒットで吹き飛んだ相手に対しても警戒を怠らなかったのは悪くなかったけど、警戒する上で少しばかり注意力と予測能力が足りていなかった、かな。重大な見逃しがあったよ」

レッド「ぐッあッ!!一体何を見て置いて…予測しておけばよかったってんだ?」

ルー「私の特性が攻撃に特化したアタッカーだと分かった時点で単体でも多勢の囲みを破る為の拘束、あるいは足止め系のスキルを持っているはずだと予測しておかなければいけなかったってこと。まぁ、それ以上に身体の支えに使っていた魔剣が『突き刺さっていた』点は重要だよ。武器に魔力を籠めたり放出したりする系統の魔法は剣先や穂先に集束させる場合が多いからその部位が死角に入ったら何かあると思っておいた方がいいよ」

レッド「それがこの…剣先から地中を這って伸びた電気の拘束魔法ってことか…。へへ、ヒントが足らねぇにもほどがあるッ!」

ルー「あはは、確かにこういうのは経験で掴むところも大きいからね。それじゃあ、経験に基づくご教授その2。拘束系魔法は相手に攻撃を直撃させる上で非常に有効だから厄介な強敵ほど使える。そして、ご教授その3。強力なアタッカーは単体で囲みを『喰い破れる』だけの大技をまず間違いなく持っている…てね。ほら、こんな風にッッ!!」

レッド「なッッッ!!?」


ルーフィシスが大地に突き刺さしていた刀を準手で引き抜き高々と天へと掲げると同時に周囲の大気が大きく鳴動し、上空は急激な勢いで雷雲に覆れ始める。

掲げられた剣先より遥か上空の雷雲の雲間より現れるは巨大な雷球。
雷雲の中で生成された鈍く輝く稲光りの全てが雷球へと吸い寄せられるように集まり肥大化を続けているが………一向に一筋の稲妻として地に落ちる様子は無い。


レッド「…冗談…だろ?」

ルー「凶悪な雷の使い手で『凶雷のルーフィシス』。それが私の二つ名だよ。えへへ、格好いいでしょ♪」


歳相応の子供らしい笑顔で死刑宣告とも言える自らの二つ名を自慢するルーフィシス。
雷の帯で縛り上げられて身動き一つ出来ない今の状況であの雷雲が丸ごと落ちるかのような極大雷撃が直撃しようものなら、間違いなく瞬殺だ。


レッド「うッぐッオオオォオオォオオオオッッ!!…なんで…パワーが…こんな肝心な時に力が上がらねぇん…だッ…!?」

ルー「無駄だよ。【地雷震】の雷光拘束帯を気合で破るにはお兄ちゃんの消耗は大き過ぎる。この短時間の攻防で【蒼き幻想砕き】を始めとした高威力弾の使い過ぎがコアのパワーダウンを引き起こしたようだね」

レッド「な…にィ…」

ルー「さっき私がダウンした時に追い打ちに入らなかったから、気合いに反してパワー消費が甚大で無意識にセーブしたんだろうってことは読めてたよ。ご教授その4、猛り狂う赤い炎は強力だけど『燃費』としては宜しくない。ガスバーナーの蒼い炎のイメージかな?猛る中にも常に平常心を、明鏡止水な心掛けを持つようにしておくこと」

レッド「く…そ…。冷静にキレろってのか…よ?」

ルー「心に余裕を持つ事を忘れるなってコト。さて、残念だけど逆転の一手はもう期待出来ないかな?それじゃあ、そろそろこの一撃を落として終わりに……くッ!?」


咄嗟に首を捻ったルーフィシスの眼前をナイフが擦り抜け数本の髪を斬り飛ばす。
緊急回避で集中が途切れた故にレッドに絡まっていた雷の拘束帯が外れ、態勢がぐらついたその左右より黒と黄色の影が素早く迫る。


????「悪ィが手加減は出来ねぇぜッ!!」

????「僕のこの刃で、倒すッ!」

ルー「援軍?うみねこイエローとブラック、かッ!?」


遠方からグリーンが投げたナイフによって態勢を崩させたうえで左右より同時に奇襲を仕掛けてみせるイエローとブラック。

対ロノウェ戦を経た事によって磨き上げられた二人の連携はコンマゼロ秒の誤差もなく理想的な『同時攻撃』を実現してルーフィシスへと襲い掛かる。

その強襲に晒されたルーフィシスの行動はイエローの拳に対しては左腕のガードで防御。
ブラックの【ブレード】に対しては掲げていた刀を右手に逆手で構えて盾として用いての防御。
そして、左右の視界の不足は両眼を個別に別動作させる【散眼】を用いて凌いで見せていた。


イエロー「このッ!細腕のガードなのにロノウェのバリア並みに固ぇ!腕にガントレットか何か着けてやがるな!」

ブラック「この刀…実剣だけど全然刃毀れしない。かなり高位の魔剣なのか」

ルー「イエローダイヤにブラックダイヤ…か。やっぱり粒揃い…だね。連携も相当のものだし、長引くといい一撃貰いかねないし眼も疲れるから…一気に脱するよ!はぁッ!!」

イエロー「ツッ!?」

ブラック「チィッ!!」


気合いと共に二人の拳とブレードを強く弾き飛ばしてその隙に俊足によって囲みを破って間合いを取るルーフィシス。
イエローとブラックから10mほどの距離を取ってから逆手に構えていた刀を準手に持ち直し、刀を足元に一閃させて『何か』を斬り裂く。


???「うー!ピンクが仕掛けた罠、気付かれてた!?」

????「それでも、一瞬程度の隙は作れたッ!!【魔王破岩脚】ッ!!」


刀を足元に向かって一閃させたことで二の太刀が遅れ上空より飛来したグリーンの体重の乗った踵落としがルーフィシスの左肩口へと吸い込まれる様に直撃し、本戦闘が始まって以来二度目のクリーンヒットとなる。


ルー「痛ッ!いい攻撃だけど…狙いが読めてたッ!!」

グリーン「ッッ!?まさか防御を捨てて攻撃をッ?!」


肩口に【魔王破岩脚】の踵落としの直撃を受けて足元の大地ごと腰が沈んだルーフィシスの右手の刀がそのまま【右片手一本突き】の構えへと姿勢を変化させる。
相手の攻撃を敢えて受ける事によって成立するラグタイムゼロの近接カウンター。グリーンの態勢は未だ『攻撃中』であり回避も防御も到底出来る状況にはない。

元より突きは最短軌道、最短動作で相手を貫く『最速』に通じる業の一つである。
この距離で、ましてや剣技に長けるルーフィシスのそれとあってはコンマ一秒の遅れでも致命的なタイムロスだ。

突き込まれる剣先の狙いは寸分の狂いもなく心臓の中心点。
腰に構えていた自身の左腕をなんとか防御か迎撃に回そうとするグリーンだが、1cm動かす間に迫る剣先はその10倍の相対距離を狭めて最短軌道でただ心臓の中央一点のみを貫かんと直進する。

グリーンのあらゆる防御行動は断じて間に合わない。
それは、相手の全く無駄のない洗練された突きの『構え』を見た時点でグリーン自身も理解していた。
だが、グリーンの表情は諦めのそれではなかった。


????「そうはさせませんッ!!」

ルー「クッ!障壁魔法!?」

グリーン「生憎だけど、僕達は一人じゃないんだ!」


ルーフィシスの刀の剣先が心臓まであと数センチにまで迫ったところで白きバリアによって阻まれてその動きを止める。
うみねこホワイトによる護りのバリア展開がギリギリのところで間に合ったのだ。


ホワイト「手順は変わりましたがこれで動きは封じられました!攻撃をお願いします、グリーン、ピンク!」


バリアの威力を高めてルーフィシスの刀の動きを制しつつ、各自に攻勢を促すホワイト。

ピンクが張った拘束魔法陣でルーフィシスの機動力を奪い、その直後にグリーンの踵落としによる痛烈な一撃を加え、動きが止まったところをホワイトのバリアで囲い込んで封殺。
本来の三者の連携はこうであった。

…しかし、その狙いはルーフィシスに瞬時に看破されて逆手に取られていた。
拘束魔法陣を先手で斬り裂かれて無効化された上に、狙い通りに決まった踵落としを利用しての近接カウンター。
仕上げとして囲い込む為にホワイトがバリアの展開準備をしていたからこそグリーンへのカウンターを防げたものの、当初の狙いからは完全に違った展開へと持ち込まれてしまっていたのだった。


ピンク「分かった!攻撃魔法で援護するからグリーンはそのまま接近戦をお願い!」

グリーン「…ッ!駄目だッ!ここは退避だ!ピンクとホワイトも下がるんだああああぁぁッ!!」

ホワイト&ピンク「「ッ?!」」


ホワイトとピンクの攻撃要請を却下して弾かれた様に飛び退きながら二人に退避を叫ぶグリーン。
剣士の刀を封じたこの好機で何故?…その疑問はグリーンが離れた事で視認しやすくなったルーフィシスの刀の剣先を見てホワイトとピンクは得心する。

ホワイトのバリアを僅かに突き貫いていたその剣先に雷光が集束して球状化していたのだ。
レッドとブルーの二人を相手取って追い込んでいたこれまでの交戦状況から鑑みても彼女が危険な『何か』をしようとしている事は明白であった。


ルー「不発っぽいけど仕切り直すには丁度いいかな、爆ぜろ!【サンダーブラスト】ッ!!」


剣先に集束されていた雷球が凄まじい光量と音を伴って周囲に爆ぜる。
雷球を爆弾の様に炸裂させたのだ。
剣先より扇状に炸裂された雷の爆裂は広場の地面を長さにして5m近く、深さに至っては大人が立ったまま潜めるほどの塹壕の様な大穴を抉って見せていたのだった。


グリーン「…ふぅ。この数秒の攻防で僕は2度も死に掛けたって事になるのか…」

ルー「…それでも、その2度の死を見事に回避して見せた…。戦人お兄ちゃんには教えないといけなかったご教授のその1が身に付いている見事な状況判断能力だね」


よほど上手く凌がれて倒せなかったにしても、ダメージ覚悟の今の攻防で一人か二人は戦闘不能に追い込めると睨んでいたルーフィシスはグリーンの判断の見事さを素直に賞賛する。
【サンダーブラスト】の炸裂によってそれぞれの距離は再び離れ、自身の左側面の10mほどの場所にイエローとブラック。そして、抉れた大穴を間に挟んで正面の15mほど先の場所にレッドとブルー、それに合流したグリーン、ピンク、ホワイトという間合いへと情勢は変化し、暫しの『仕切り直し』の間が出来る。


ルー「新たな三人はグリーンダイヤにピンクダイヤ。そしてホワイトダイヤ…かぁ。ふふふ、凄い!これだけ強くてもまだ全員に磨き上げる余地がある色彩豊かな大型ダイヤの原石ばかりだなんて!…流石はファントムに、あの男に挑んでいるだけの事はあるよッ!」

グリーン」「…あの男?」

ルー「ホープダイヤな蜃気楼のことなんだけど…まだ知らない…か。さて、ブルーはホワイトにいくらか治療してもらって重体レベルからは脱したみたいだけど、まだまだ重傷だね。そしてレッドの消耗も重度でこの戦闘中での回復はほとんど見込めない…か」

イエロー「おっと、そっちが優勢ってことはねぇぜ。こっちの攻撃だって当たってるんだ。ダメージはかなり重んでるはずだぜ?」

ルー「…確かに、ね。左腕の誘導レールもイエローの鉄拳で壊れちゃったから【手首電磁砲(リストレールガン)】は出番の無いまま使えなくなっちゃったし…レッドとグリーンの攻撃の直撃で最高級の宝石クラスの【防護魔石(バリアクリスタル)】もかなり消耗しちゃってる。…このまま七対一で経戦するなら……余裕はあんまり無いのが本音だね」


そう言って左手を軽く頭に当てて困った様子を表現しようとしたルーフィシスだったが…思った以上の激痛に苛まれてその左腕をだらりと下げる。…どうやらイエローの鉄拳は魔力強化した特注の鋼鈑製誘導レール付の手甲の上からでも尺骨に亀裂を入れたらしい。…それに、グリーンの踵落としが飛来するポイントを読んで力と【防護魔石】の守護力を集束させていた左肩についても、同様の亀裂が鎖骨に入っているのが痛みの流れで感じ取れていた。
この分だと…と、服の胸部に装飾されている【防護魔石】の方も直接視認してチェックしてみると、魔石に充填された魔力は完全に枯渇し、本来の蒼い輝きは失われて砕け散る寸前と言っていいまでに摩耗し切っていた。


ルー「…戦車砲の直撃2回でもここまでの損壊は普通はしないわね。…攻撃力に対幻想補正値でも付いてるのかな…?…訂正。全く余裕はないかも…だね」

レッド「…なぁルー、お前はファントムには属していないって言っていたよな?それなら…ここでもう痛み分けって事で、終わりでいいんじゃねぇのか?」


ブルーのダメージ状態が危険域を脱し、うみねこセブンの仲間が揃ったことで優位に立ちはじめた事でレッドはルーフィシスに停戦を申し出る。
これ以上の交戦に意味は無い、と感じてのことだったが…

「…単なる俺の『臆病』からなのではないか…?」、そんな自問がレッドの脳裏を過ぎる。

この戦いが最悪な形を向かえる前に適当に終わらせたいだけなのではないのか?
このまま続けた先にあるのはどちらかが潰えるしかない『あの悪夢の戦い』の再現になるのではないか…?

レッドはまた同じことを繰り返すのではないかとの『恐れ』からの思いなのか、素直に状況を鑑みての自身の『判断』なのかの自らの意思の迷いに逡巡する。


ルー「痛み分け…ねぇ。…戦人お兄ちゃん、ご教授その5、だよ。指揮官は自分の発言に確固たる信念と理念を持たなければならない。…今のこの戦況に何か思う所があるのかも知れないけど、リーダーがちゃんと明確な意思を持たないといざと言う時に集団はちゃんと機能しないよッ!」

レッド「ッッ!?」


迷いに満ちていたレッドとは対照的にルーフィシスはその迷いの深い根元近くまでも見抜いた上で鋭くレッドを一喝する。

「唯の思い付きの発言などでは止まるものも止まらない」、そう断じたのだ。

停戦を相手に要求するのであればそれ相応に相手を説き伏せるだけの交渉のカードを、妥協させるだけの条件の提示などの外交としての『論戦』をするつもりで備えるべきであったのだ。


レッドは今更ながらにあの戦いが途中で止まらなかった理由の一端を思い知りつつあった。

お互いがお互いを知らなさ過ぎたのだ。
きっとあの日、あの場所にベアトが居たのは偶然では無く、彼女は彼女で背負うものを背負ってあの場に居たのだ。
そして、自分はあの日、あの場所に辿り着いたのは偶然では無く、仲間達の思いと願いを背負って前へ前へと前進し、その末にあの場所へと辿り着けたのだ。

ベアトも自分もそのお互いが背負ったものを何も知らなかった。
だから……止まらなかったのだ。


レッド「……済まなかった、ルー。確かに、そうだよな。自分の意思が地に足着かずでいい加減な今の俺の言葉で人の心なんて動かせるわけが無ぇ。もう一度、言い直させてくれ」

ルー「…うん、いいよ。ちゃんと考えた上で言ってみて」

レッド「感謝する。ルー、この戦いだが、これでもう終わりにしよう。俺は、お前が俺を鍛え上げる為に戦うと言って始まったこの戦いをこれ以上続ける事に意義があるとは思えない。俺とブルーだけだった時には随分と不利に追い込まれて学ばせてもらったが、仲間が揃ってからは戦況はもう一転してる。何より、もう5つもありがたいご教授を頂いちまってる身だ。6つ目は流石にもう無ぇと思うぜ?」

ルー「…確かに、これ以上の交戦は鍛えようかって戦いの状況にはならないかもね。大悪魔や大魔女とも互角に渡り合えるぐらいの自負はあったんだけど…七人揃うと手強いなぁ…ホント」

レッド「なら、これで仕舞いって事に出来そうか?」

ルー「…ううん。残念だけどルーにはまだ教えられる事がいくつかあるよ。だから、それを消化する為に…『これ』で終わりにしようかッ!!」


自身のダメージと状況を再認識し、交渉を行った上で停戦の申し出を蹴って経戦を宣言するルーフィシス。
勢いよく逆手に構えると同時にその手の刀が大地に突き立てられる。
先の教訓からレッドはいち早く反応して次のアクションの阻止にかかる。


レッド「同じ手は食わねぇ、よッ!」


連射された【ガン・イーグル】によって突き立てられたルーフィシスの刀の周囲が大きく抉れて地中が地表に露わになる。
先程レッドが絡め取られて窮地に追い込まれた地下を這って襲い掛かる雷光拘束帯を視認出来る様にする為の一手だ。


ルー「さっそくのご教授その6だよ、戦人お兄ちゃんッ!同じアクションから使われる技や魔法が同じだと頭から思い込まないことッッ!!」

ピンク「うー!何これ…何か、絡まった??」

イエロー「痛ッ?!って、なんだこれ?ピリピリする?」

ホワイト「極小の…電気の糸…ですか?」


拘束用の雷光の帯が襲い掛かかって来ると身構えていたレッド達は拍子抜ける。
確かに七人全員に電気で構成された極細の糸の様なものが絡みついたが…その威力はマッサージ用の電極一つにも劣る威力しか無かったからだ。


ルー「さぁッ!ぼんやりしている余裕は無いよ、お兄ちゃん達ッッ!」


大地に突き立てていた刀を準手で引き抜きそのまま高々と振り上げて天を仰ぐルーフィシス。
その姿を見てレッドを始め七人全員がハッとなる。
振り上げられて仰ぎ見られた剣先の先、その遥か上空には先程よりも更に大きくなった極大な雷球が一つ、雷雲の雲海より再びその姿を現したのだ。

ルーフィシスを除いてその場に居た全員の思考と背筋が一瞬にして凍り付く。

グリーン、イエロー、ブラックの三者の奇襲によって構えを解かせた時点で霧散したと思い込んでいた雷雲内の巨大な雷球は主の手を離れつつも未だ健在であったのだ。

しかも、手を離れ続けていたその間にも延々と集束を繰り返し続けていたと言う凶悪なおまけ付きである!


ルー「我が名において狂い堕ちよッ!地上の寄る辺に寄り添い堕ちて、全ての者を死へと誘えッ!凶つ災禍たる雷よッ!」

イエロー「お、おいおいおいおいおいッ!あんな山みてぇな巨大な雷球が此処に落ちて来るってのか!?」

ブルー「まさか……これって雷塵事件の……けほっ」

ピンク「うー!みんなホワイトの元に集まって!」

グリーン「そ、そうか!ホワイトのバリアをピンクの魔法で強化すればある程度の威力は防げるかも知れない!」

ブラック「それに、チャージの時間さえ確保出来ればベアトリーチェの魔法を弾き飛ばしたあの一撃だって使えるはずです!」

ホワイト「可能な限り厚くバリアを張ります!皆さん、急いでください!」

レッド「…妙だな。『狂い堕ちよ』と言っているのに…『地上の寄る辺に寄り添い堕ちて』……てのはいったい何の……そ、そうかッ!!さっき全員に絡みついた電気糸…これはロックオンなんだ!散開だみんな!固まってたら逆にやられるッ!無理でもなんでも…あの攻撃は各個撃破するっきゃねぇッッ!!」


ルーフィシスが紡いだ詠唱の違和感から全員が一カ所に集まる事の危険を察して土壇場で散開しての各個迎撃を命じるレッド。
残る時間が何秒あるかという所での突然の命令変更に戸惑うイエロー達だったが、グリーンもまたその真意に気付いて散開を促した上で自身も迎撃態勢に入る。

全員にロックオンが掛かっていると言う事は、『それぞれ』に『精密』にあの雷球は落ちる、と言う事だ。
上空から襲い掛かって来る攻撃に対して有効な防御策となれば直上に円錐状にバリアを張ってエネルギーを斬り裂いて受け流す『傘』とするのが最も効率的だ。実際ホワイトとピンクはその迎撃手段を用いるつもりで全員を一カ所に集合させようとしていたのだ。

…しかし、その防御手段には大きな『前提』がある。
それは狙われるはずの全員が集結する事で雷球が『一方向から襲い掛かる事』を想定しているのだ。
ルーフィシスが布石として仕掛けた雷糸によるロックオンは電気というものの特性を思えば有線式の避雷針を取り付けられたと評する方が正確だろう。
それぞれに括り付けられた雷糸を辿って雷球が七方向へと分散して追尾炸裂するとあっては一点集中防御では到底対応しきれるものではない。


ルー「…ふふ、散開した点はまず合格…だね。じゃあ、行くよ!うみねこセブンッ!私の対多人数戦の最大の切り札、防げるものなら防いで見せてッッ!!!!」


詠唱を終え、七人の構えを見遣ってから雷球へと視線を向けるルーフィシス。
その場に居た全員が理解する。
その視線が再び自分達へと向けられるその瞬間こそが、落雷の瞬間だ、と。


ルー「均等雷房炸裂魔法……【サンダークラスター】ッッッッ!!!!」


天高く掲げられたルーフィシスの刀が裂帛の一声とともに振り下ろされる。
その気合いと一閃に呼応して巨大な雷球は七本の御雷の槍へと姿を変えて地で迎え討たんとする七人の獲物を目指して一斉に降り注ぐ。



「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」」」




絨毯爆撃もかくやという凄絶な轟音と震動が遊園地のエリア一帯を震撼させ、太陽の如き極限の光の輝きが遊園地の敷地全域へと迸る。





終焉の光の炸裂を思わせるその結末は……





ルー「………凄い。…【サンダークラスター】で一人も倒せなかったなんて…今まで一度も無かったのに…」


自身が得手とする魔法と言う事もあり、音と光に慣れていたルーフィシスには七人の行動の全てが見えていた。

自らの拳を天高く打ち上げて降り注いだ雷槍を正面から打ち払ったイエロー。
黒きブレードで雷槍を切っ先から一刀両断したブラック。
自らの渾身の蹴りを雷槍の先端側面よりぶち当てて軌道を逸らしてみせたグリーン。
白きバリアを上方に向けて円錐型に極限まで高圧縮展開して雷槍の弾いて凌ぎ切ってみせたホワイト。
自らの雷撃魔法弾を最大出力で放って雷槍を喰い破る雷龍を顕現させてエネルギーを完全相殺したピンク。
【天使の幻想砕き(エンジェリック・ファントムブレイカー)】を銃で撃ち出して雷槍の威力を削いでから【幻影の双剣】で雷を斬り凌いで見せたブルー。
そして、気力を振り絞って三度目の【蒼き幻想砕き(ブルー・ファントムブレイカー)】を撃ち放って雷槍を撃ち貫いた後に不可思議な紅の障壁で雷撃の残滓を完全に消し飛ばして見せたレッド。


七者七様の神業をもって天より降り注いだ雷槍の迎撃を成功させて見せていたのだった。

Re: 番外編 - 航希

2012/05/04 (Fri) 02:08:43

こんばんは^^ 航希です。
今日休みだったので、久しぶりにSS書いてみましたw
久々すぎて書き方忘れてましたけども^^;
ところどころ文章おかしいのは、そっと見ない振りしてやってください~。
最近熟女&おっさん組が目立たないので、そちらメインです。
時間軸とか武器の設定とかは、番外編なのでちょっと適当です(オイ)

それでは、失礼致します。

Re: 番外編 - 航希

2012/05/04 (Fri) 02:01:22

<font size=4><b>【うみねこセブン番外編】Wうみねこセブン現る?!</b></font>


「…風邪、ですか」
試作品のバトルスーツを抱えなおしながら、基地内の廊下を歩く南條。
並んで歩くのは留弗夫だ。
「まぁ、風邪っつってもただの風邪だからなぁ。南條先生の手を煩わすまでもないと思って、風邪薬飲ませてさっさと寝かしたさ」
真里亞が学校で風邪をもらったらしく、それが基地内のトレーニングルームで訓練していたセブンメンバー全員にうつったらしい。
こういったことはメカニックであり医師でもある南條に真っ先に知らせられるはずだが、寝る間を惜しんで武器や装備の開発、改良を行う彼に気を遣ったようだった。
「そうですか…わかりました。目を覚ました頃に、私も診てみましょう」
「あぁ、助かります」
司令室に入ると、なんともまったりとした空気が流れていた。
今日は休園日。アトラクションのメンテナンスは業者に任せ、経営陣はのんびりと事務作業をこなしていた。
最近は、七姉妹全員を倒されたからかなんなのか、ファントムもおとなしい。
「あぁ、南條先生。お疲れ様です…おや、それは?」
「バトルスーツをちょいと改良してみました。今のものと比べると、受けるダメージは3分の2ほどに軽くなる計算です」
「ほう! それは素晴らしい」
どさりと司令室中央のデスクに置いたスーツを、ちょうど休憩の頃合とばかりにわらわら囲む親たち。
「しかし残念ですな。すぐに調整して実践に投入できるようにしたかったのですが」
「そうねぇ。ファントムも今はおとなしいけど、またいつ襲撃してくるかわからないもの」
「そうよね。ダメージが少なくなるものなら、早く実装してあげたいし…」
ふーむ、と唸る親たちの中で、霧江がくすりと笑って手を挙げる。
「…それ、調整のテストは戦人くんたち本人でないと駄目なのかしら?」
「せやな! わしらの誰かが着て、テストするっちゅうんでもええんとちゃうか?」
その言葉に、南條もぽんと手を打つ。
「そうですな。コアパワーが関係するところは大体調整が済んでいますから、別に戦人さんたちでないといけないということはありません」
「じゃあいいじゃねぇか。誰か1人なんて時間の無駄だぜ。ここにゃおあつらえむきに7人いるんだしよ」
「そう…ですね。一気にやってしまった方が、南條先生の手間にもならないでしょう」
着替えたらトレーニングルームに来るよう言い残し、南條は機材準備のために司令室を出て行く。
残された親たち7人は真新しいバトルスーツを囲み、なぜかちらちらと互いを牽制するように視線を交わす。
「……ふむ」
「って何が『ふむ』よ! 勝手にレッド取ろうとしないでくれるぅ?!」
自信満々にレッドのスーツに伸ばした蔵臼の手を、容赦なく払いのける絵羽。
「何をするんだね! レッドはリーダー。次期司令官、つまり次期司令室リーダーであるこの私にこそふさわしいだろう!」
「おいおい兄貴ィ。次期、っていつまで戦い続けるつもりなんだぁ?」
「そうよぅ! 縁起でもないこと言わないでちょうだい! …うふふ、女性のレッドっていうのもいいわよねぇ♪」
蔵臼からスーツをひったくった絵羽が、体に当てながらくるりと回る。
「何を言う! 長男である私がレッドに決まっている! くっ…返したま、え…っ!」
「お、い…っ、姉貴、レッドである戦人の親父の俺がレッドに決まってんだ、ろ…っ!」
レッドのスーツを取り合う3人を尻目に、後ろでは和やかに別の色のスーツが手に取られていく。
「私は朱志香と同じ色がいいです」
「わしも譲治と同じ色にするわ!」
「じゃあ私も真里亞と同じ色にしようかしら。…くす、可愛いわね♪」
「私は寒色系が好みね。ブルーにしようかしら」
レッドを取り合う3人の戦いは、決死のジャンケン大合戦に突入し、どうやら留弗夫が勝ったようだった。
「く~っ、いいねぇ。ナントカ戦隊のレッドなんて昔は憧れたもんだぜ」
悦に入る留弗夫を睨み付けながら、絵羽は素早くブラックのスーツをひっ掴む。
「…ふん、じゃあ私ブラック! 兄さんはホワイトね、はいどうぞ」
「なっ…なんだとおおおおお! ホワイトは女性用だろう!」
「いいじゃない、朱志香ちゃんや紗音ちゃんや真里亞ちゃん、新しく入ったグレーテルちゃんだって最前線で戦ってんのよ? 男女なんて関係ないでしょ。これだから兄さんの男尊女卑は」
「私はスーツのスカートのことを言っているんだっ!///」
「あぁらいいじゃない。可愛いわよぅ? うっふふふふ!」
「ぬおおおおおおおおおおおお!!」
想像してのたうち回る蔵臼を哀れに思ったのか、秀吉がフォローに入る。
「ま、まぁまぁ絵羽。わしは絵羽のホワイト姿も悪くない思うで? 純粋なお前にはピッタリな色やないか!」
「んもう、あなたったら…じゃあホワイトにしようかしら」
純粋というより単純なんでは、と誰もが思ったが、懸命にも口に出す者はいなかった。

それぞれ着替えを終え、トレーニングルームへ向かおうと扉の前に立った、そのとき。
「…ちょっと待って」
霧江が一行を呼び止める。
彼女が見ているのはモニターだった。
遊園地内や学校や街のいたるところに仕掛けてある、モニター。
その一つ、黒い山羊の群れが人通りの多い地域へ向かう様を食い入るように見ていた。
遅れてファントム出現を感知するセンサーランプが点滅する。
普段ならすぐさまアラームを鳴らし、うみねこセブンの出動を要請する場面。
7人が顔を見合わせる。
うみねこセブンである子どもたちは、皆風邪で寝込んでいる。
出動して、風邪が長引いて、その間に山羊よりもっと強い、あの七姉妹のような悪魔や幹部の魔女が攻めてこないとも限らない。
…いや。それ以前に、親として。
風邪で寝ている子を引っ張り起こして、戦って来いだなんて。
ぽちりとランプの点滅を解除する。
「…行くか」
短く留弗夫が呟いた。
反対する者はいなかった。
後方支援は彼らの大切な任務だ。それはわかっている。
遊園地の経営、運営業務も彼らにしかできない、重要な仕事だ。それもわかっている。
誰に恥じることもない、前線で戦う子どもたちにも胸を張れる、大人の仕事。
でも。
子どもたちとファントムとの戦いを映すモニターを見るときの、胸が潰れるような思い。
ボロボロになって帰ってきた子どもたちを迎えるときの、涙がこみ上げるような思い。
なぜ自分が代わってやれない。
そう思ったことのない親はいなかった。
もちろん、コアと共鳴する彼らだけが唯一ファントムに対抗できる戦士だということは理解している。
それでも。
痛みだけでも、苦しみだけでも…何度代わってやりたいと思ったことか――。
ザッと司令室の扉が開いた。
開発室にいることが多い南條は、司令室で感知したものが全てモバイルに飛ぶようになっている。
ファントム出現を知らされ、慌てて戻ってきたに違いなかった。
そしてアラームが鳴らされていない現状と、全員の妙な雰囲気を敏感に察知し、呻くように釘を差す。
「い…いけませんぞ、皆さん。危険すぎます…!」
「へへ、わぁってるって。顔見せだけして、奴らがビビって逃げたらとっとと帰ってくらぁ」
「幸い、出てきているのは山羊だけのようだしな」
「そうそう、私たちなら大丈夫よぅ。私は武術の心得があるし、兄さんもボクシングやってたしねぇ?」
「そ、そうね。留弗夫兄さんと霧江姉さんも銃の腕前は相当のものだし」
「しかし…」
「まぁまぁ南條先生、あの暴れとる山羊たちにちょ~っと痛い目みてもらえればええだけなんや。そんな大それたことはせぇへん! な? みんなそうやろ?」
ウンウンと頷く中、夏妃だけが「いえ私たちが立派に戦って勝利してみせます!」と叫びかけるのを塞ぎつつ、霧江がにこりと笑う。
「…ということですので、南條先生。私たちに合うような武器、出してくださいます?」

<hr>

無数の山羊たちが行軍する行く手を阻むように、7つの影が立っていた。

「おっと、ここから先は進んでもらっては困るね。うみねこブラック!」
「ちょっと! なんでブラックから名乗り上げるのよぅ! うみねこホワイト!」
「だーーーーっ! たく、レッドより目立つんじゃねえぜ! うみねこレッドぉ!」
「じゅ、順番くらいいいじゃない…うみねこピンク!」
「異形の者たちよ! 私たちが成敗して差し上げます! うみねこイエロー!」
「せや! 山羊さん、できれば大人しく帰ってくれへんかなぁ? うみねこグリーン!」
「…くす、まとまりないわねぇ。うみねこブルー」

「これ以上お痛するようなら、<b>月にかわってオシオキよ♪</b>っとくらぁ! 『六軒島戦隊 うみねこセブン』参上!」

「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」

…敵以上に味方から冷たい視線を受ける留弗夫であった。
「あんた、レッド向いてないわ」
「るど…レッド、そういう趣味をお持ちだったのですね…」
「兄さ…レッド、今後うちの子に近づかないでくれる?」
「………………(にっこり)」

ともあれ、戦闘が始まった。

<hr>

「…ち、まずいな」
銃のエネルギー残量を確かめながら留弗夫が舌打ちをする。
どこから沸いてくるのか、戦闘開始からずいぶん経つ気がするが、山羊の集団は一向に減る気配がない。
山羊一体一体は、生身の丸腰ならともかく、冷静にかかればセブンと同じ装備がある以上、戦い慣れしていない分を差し引いても何とか凌げる程度ではある。
しかし、こちらの装備や武器は、コアのパワーを充填したものを消費しているだけだ。
いつかはエネルギー切れ、効果切れをおこす。
「…へへ、やべぇよなぁ」
ひとりごちても状況は変わらない。
奴らは無限。
こちらは有限。
体力だっていつまで続くかわからない。
くそ、どうする―――。

と、そのとき。

留弗夫の目に映ったのは、ふらふらと走ってくる7つの人影。
同じバトルスーツを着た新たな7人に気付いたのか、山羊の動きも止まった。

「…と、とりあえずくしゃみが止まらねぇ…っくしょい! うみねこ、ずび、レッド!」
「う…目の前がくらくらするぜ…うみねこイエロー…」
「…レッド、大きな声出さないで…頭に響く…うみねこグリーン…」
「うー…おなかごろごろする…うみねこピンクー」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふうみねこホワイト♪」
「げほがほげほげほごほがほげほうみげほねこげほブラッ、ごほごほげほ!」
「ずるずるずるずるずびーずるずるずびずびう゛み゛ね゛ごぶる゛ーずびずび」

「『六軒島戦隊 うみねこセブ、<b>ぁぁっっっくしょおん!!</b>」

ふにゃん

名乗りも締まらないが、朦朧としながら決めるポーズもさっぱり締まらなかった。
しかし親はそれどころではない。
「じぇし――」
「じょう――」
「ばと――」
「まり――」
<b>「「「「しーーーーーーーーーーっ!!」」」」</b>
こんなところで大声で名前を呼ばれて正体がばれたりしたら、笑い話にもならない。
音声を内部通信のみに切り替えて、どうして来たんだと怒鳴る親たちの武器をそれぞれひったくる。
そして――自分たちの装備している、コアパワー満タンの武器と交換した。
「悪ぃけど、ここまできたら最後まで付き合ってもらうぜぇ? いっひっひ…っくしょん!」

そして戦人たちを迎え、第2ラウンドが始まるのだった。

<hr>

「朱志香! あなたは私の後ろに隠れていなさいッ!」
「…んなわけいくかっての…母さんこそ、私の後ろに隠れてて…」
眩暈を堪えながら夏妃の前に立つ朱志香。
しかし、一歩歩くだけでふらりとよろけてしまう。
「じぇ、朱志香! 大丈夫ですか? ほら、あなたは安全なところに――」
避難していなさい、という言葉を発する間もなく、朱志香の背後に山羊の姿を認め、夏妃はキッと顔を上げた。
「朱志香に何をするのです! せぇえああああああッ!!」
夏妃に手を放されて座り込んだ朱志香の頭上を、かまいたちのような風が切った。
「え、母さ」
「私がうみねこイエローですッ! かかってくるならこの私にしなさいッ! せぇええええいッ!!」
槍のような先端に刃のついた長い武器を、流れるように操る夏妃。
「…えーと、薙刀は護身術程度とか言ってなかったっけ…って、うわっ?!」
「朱志香!」
夏妃1人では、朱志香の前は守れても後ろまで守りきることはできない。
「…ってー…」
攻撃を受けた箇所を庇いつつ立ち上がろうとした瞬間、今度は二つの黒い影が駆け抜けた。
「じぇ、朱志香の可愛い顔に何をする貴様ぁぁぁあああああああああああ!!」
「げほげほごほがはごほごほげほげほ!!(朱志香を傷つける奴は容赦しないッ!!)」
<b>ブォン!</b>
蔵臼の痛烈なアッパーカットで浮き上がった山羊を、上空へ跳躍した嘉音のブレードが地に落とす。
「次、奴だ! さっき朱志香の華奢な体に体当たりをしていた!」
「げほげほごほごほ!(なんですって!)」
<b>ブォン!</b>
「はっ、そこの山羊! 朱志香に近づくことは許さんぞおおおおおおお!!」
「ごほごほごほんがはげほげほ!!(朱志香あああああああああ!!)」
「…さっきから朱志香を呼び捨てにしていないかね?!」
「…げほげほ」

<hr>

「ふ…ふぇ…ぶぇっくしょん!」
<b>ズダダ!</b>
「うぉお?! ば、馬鹿野郎! 殺す気かぁ?!」
くしゃみの反動で思わずあらぬ方向にトリガーを引いてしまう戦人。
「ずびび…いっひっひ、悪ぃ悪ぃ。…ふぇ…ぶえっくし!」
<b>ズダダダダ!!</b>
「てめ、わざとやってねぇかぁ?!」
「へっ、日頃の行いが悪いんじゃねぇかぁ? このクソ親父…っくしょい!」
<b>ズダダダダダダダダ!!</b>
「~~~~~~~~~~!!!」
そんな2人を遠目に見ながら、正確な射撃で山羊を倒していく霧江とグレーテル。
「くす。なんでこう男っていうのは子どもっぽいのかしら」
「ずびずびずるずる(まったくね)」
会話の合間にも攻撃の手は緩めない。
周囲の敵はあらかた倒し終わり、2人が戦人と留弗夫に合流しようとしたそのとき。
「霧江」
「グレーテル」
不意に留弗夫と戦人の視線と銃口が、2人を捕らえる。
直後。
背後でドォンと音を立てて山羊が倒れた。
忍び寄っていた山羊を、留弗夫と戦人が撃ったようだった。
「…そして、なんでいいところを持っていくのだけは上手いのかしらね、男って」
「ずるずるずびー(ほんと謎よね)」
「「ぶぇっくしょん!!」」

<hr>

「…ママ、トイレ」
「え、ええっ?!」
「吐きそう…」
「ちょっ、ま、待ってなさい! すぐママが用意してあげるから! ちょっとだけガマンよ、いい?」
「うん…うぷ」
「い、いいから座って楽にしてなさい。この杖は真里亞の? …これ、頑丈かしら」
「うん、魔法がかけてあるから絶対壊れたりしないよ」
「そう」
真里亞に向かってにっこり微笑みかけると、楼座はすっと息を吸った。
<b>「うおおおおおおおおおおおおお!! 真里亞の盾になりたい奴から前に出ろよおおおおおおおお!!」</b>
楼座の手元からこの世のものとは思えない音が連続して発生する。
まさにちぎっては投げちぎっては投げ、を体現するように黒い巨体が吹っ飛んでは真里亞の周りに積み上げられていく。
もはや真里亞の魔法のステッキはただの鈍器と化していた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
ものの数分で真里亞の周りに黒い城壁を積み上げると、楼座はにっこりと笑って真里亞の背中を擦った。
「ほら真里亞、もう他の人たちからは見えないからここでゲーしなさい」

<hr>

「メェーーーーーー!!」
「メェーーーーーー!!」
雄たけびを上げながら突進してくる山羊たちをかわしつつ、譲治は眉間に皺を寄せる。
「…ははは。攻撃するならもうちょっと声量を落としてもらえないかな…」
少し体を揺らすだけでも頭痛に響くのに、その上大声を出されてはかなわない。
「メェーーーーーー!!」
「…………」
「メェーーーーーー!!」
「……」
「メェーーーーーー!!」
「…だから」
「メェーーーーーー!!」
「…静かにしてほしいって」
<b>「「メェーーーーーー!!」」</b>
「……言ってるよね?」
――ふと、時が止まったように山羊の動きがぴたりと止まる。
マスクの中でにっこりと、この上なく優しい笑みで語りかける譲治。
しかし山羊は、隠されたマスクの向こうに目だけ笑っていない、果てしなく恐ろしい笑みをたたえた魔王を幻視するのだった。
<font size=1>「メェ…っ(ガタガタガタ)」
「メェ…っ(ブルブルブル)」</font>
「…そうそう、良い子だね。もうお帰り。見逃してあげるから」
可哀想なほど震えながらも、それでも可能な限り足音を消して逃げる山羊たちだった。

<hr>

「うふふふふふふふふふふふふふ♪」
「うふふふふふふふふふふふふふ♪」
「やるわねぇ、紗音ちゃん。楽だわ~」
「絵羽様こそ、その足技素敵です♪」
「ふふ、ありがと。次、あっちの集団行きましょ」
「はい♪」
「あなた~! 次行くわよぅ!」
「おう! 任しとけぇ! わっはっはっは!」
バリアを張る紗音と背中合わせの絵羽。
くるくると華麗なダンスを踊るように山羊の群れへと突撃していく。
「あなた~! いいわよぅ、じゃんじゃんお願い!」
「ほいきた!」
秀吉がその重量をフルに使ったボディアタックを仕掛け、山羊を絵羽の目の前に突き飛ばす。
紗音のバリアの境界ギリギリまで引きつけ、回し蹴りを決める絵羽。
そのパワーはもちろん、紗音のバリアで弾かれる力+スーツで増強された絵羽渾身の蹴り、なのだから山羊にとってはたまったものではない。
「絵羽様、次あっち行きましょう♪」
「いいわねぇ♪」
次から次へと山羊をお空のお星様へと飛ばしていき、テンションを上げる絵羽。
ついでに普段おっとりした紗音も、熱ゆえにテンションはとどまることがなかった。

<hr>

死屍累々と倒れた山羊たちが黄金の蝶となって消えていくのを見ながら、セブンメンバー及び親セブンは肩の力を抜く。
「はー、つっかれたぜぇ!」
「ははは、まあ誰も何事もなくてよかったよ」
「まぁなー! …ん~っ! 運動して汗かいたら何か熱とか引いた気がするな」
「うー! 真里亞も治った! ママのおかげ!」
すっかり元気になった子どもたちに、親もほっと息をつく。
「しっかし戦人ぁ? 基地に帰ったら銃の訓練みっちりやらねぇとなぁ?」
「う、うるせぇな! ありゃ不可抗力だろ? 普段だったら俺だってもっと命中率あるぜぇ?」
「へっ、散弾ばっかばらまいてる奴がよく言うぜ。男なら急所に一発ズドン、だろ? …女のハートもな」
「…ほんと、散弾ばっかばらまいてる人がよく言うわね(にっこり)」
そんな(留弗夫家では)他愛ないやり取りに顔をほころばせるグレーテル。
「お、なんだよグレーテル。今笑ってなかったかぁ? いっひっひ!」
「べ、別に笑ってないわよ」
「嘘つけ。お前ももっと笑えば可愛いのによぉ」
「ううううっさいわね!/// あんた目ぇおかしいんじゃないの?! 笑ってないったら笑ってない!」
「ひっでぇ! 真里亞~今の聞いたかぁ~?」
「うー! 戦人、目おかしい!」
「うがあああああああ真里亞までひでぇだろおおおおおおお! 兄貴いいいいいい!」
「ははは。…あ、それはそうとちょっとフォローしておかないと」
「フォロー?」
「うん。もしかしたらどこかからファントムの幹部連中が見てるかもしれないからね」
そう言って、譲治は音声を外部に聞こえるように設定し直す。

「…まったく、困りますよ。うみねこセブンヒーローショーのスタッフである皆さんにケガなんてあったらどうするつもりだったんです?」

<hr>

「…なるほど、驚かされました。そういうことなら合点がいきます。あれはうみねこセブンの衣装を着た一般人だったというわけですね」
「どうも動きが悪いと思ったわー。また新たな戦士が現れたのかと思ったけど、心配なさそうね。使ってた武器は本物みたいだったけど、こういったことを見越してすり替えていたのかもしれないわねぇ」
「今後うみねこセブンヒーローショーの上演中は襲撃を控えるべきでしょうな。通達を出しておきましょう」
ワルギリアが設置した三面鏡の前で腕組みをする、意外にピュアなファントムの面々だった。

<hr>

次の日。
「…あれ? 兄貴、南條先生は?」
「あぁ、母さんたちを診てるよ」
「へ?」
昨日の戦闘で酷い怪我をした者はいなかったはずだ、と考えて、戦人はニヤリと笑う。
「ははーん、アレだろ? どうせベタベタの、今度は親がみんな風邪ひいちゃいましたーってオチだろ、どうせ」
「あはは、ある意味もっとベタというか、何というか…。まぁ、戦人くんも手伝ってね」
「手伝う?」
怪訝な顔でドアを開けると、そこはさながらゾンビの這い回る野戦病院のようだった。
「うぅぅぅ…いててて…」
「シップ…南條先生…足にもシップを…」
「真里亞…もっと優しくマッサージして…いたたた!」
運動不足な体に急激な負荷を与え、その後クールダウンもせずに放置しておくと乳酸がたまってエライことになるあれだ。
「…筋肉痛かよ」
「…ま、まぁ、筋肉痛が次の日に出るなんて、みんなまだまだ若いって証拠なんじゃないかな…はははは」
「ちぇ、カッコ悪いったらねぇぜ。昨日はあんなに――」
「あんなに?」
「な、なんでもねぇよ!」
ずかずかと部屋に入ってぐるんと腕を回し、シャツの袖を捲くる。
「いっひっひ! クソ親父ぃ、俺がぐりぐり揉みほぐしてやるぜ~? ありがたく思いやがれ、おりゃあああああ!」

一際大きい留弗夫の叫び声が、六軒島にこだまするのだった。

Re: 番外編 - 航希

2012/04/24 (Tue) 22:59:56

<font size=5><b>【紹介SS】メタミッション:「うみねこセブン企画」を紹介せよ!</b></font>


戦 人「↑ということで、戦人だぜ!」

朱志香「朱志香だぜ!」

真里亞「うー!真里亞だぜー♪」

譲 治「……え、っと。譲治です」

戦 人「んだよ兄貴、ノリ悪ィなぁ」

譲 治「ほっといてくれよ(涙)そんなことより、早速ミッションを開始するよ。みんなは【うみねこセブン】って知ってるかい?」

朱志香「当ったり前だぜ! 私たちが出てるやつだろー?」

戦 人「げ! マジかよ。俺、全然知らねぇ……」

真里亞「うー。真里亞もよく知らない」

譲 治「そ、そっか。<font size=2>(何でこのミッションが僕らに回ってきたんだろう…(汗))</font>じゃあそこからだね。【うみねこセブン】っていうのは、『特撮モノ』をテーマに…もっと言えば<b>『戦隊モノ』をテーマに、みんなで一つの長い物語を作ってみよう、という企画</b>なんだ」

朱志香「簡単に言えば『もしもうみねこがヒーローと悪の組織が戦う世界だったら』って感じかな。キャラはうみねこ原作準拠で世界観が違う、IFの世界。まさにパラレルワールドってわけさ」

譲 治「ヒーロー側である、僕ら<b>『六軒島戦隊 うみねこセブン』</b>と、ベアトリーチェ率いる敵対組織<b>『幻想結社 ファントム』</b>の戦いを軸に進む物語なんだ。うみねこセブンの世界がどうなっているのかは、サイトメニューの《about》の設定ページから【キャラ設定】と【世界設定】を読んでみて」

真里亞「うー、読む。戦人も読む!(カチカチ)わぁああ!真里亞、うみねこピンクだ!」

戦 人「俺はレッドか。いっひっひ! おもしろそうな企画、でもって俺がカッコイイとくりゃ参加するしかねえな! ……っと、でも参加っつってもどうやって参加すればいいんだ? SS? …俺あんま長い文章とか書けねえんだよなぁ……」

譲 治「大丈夫だよ。参加と言っても人それぞれで構わないんだ。まず企画のメインとなる<b>【本編】</b>だけど、SS風はもちろん、台詞メイン、あらすじのみ、展開メイン、メインシーンのみとか、<b>好きな形式</b>でいいし、内容についても、日常シーン、戦闘シーン、設定中心など<b>好きな部分、書きたい部分だけでOK</b>なんだよ」

戦 人「おぉ、結構ゆるめなんだな。そうだなぁ…メインのバトルシーンだけとかなら、俺でも書けそうな気がするぜ」

朱志香「本編の他にも、<b>【番外編】</b>があるぜ。番外編は直接本編と絡まない分、自由度が高いんだ。もちろん本編派生のアナザーストーリーを書くも良し、まだ登場していない人物を出すも良し。フリーダム上等!ってんなら、<b>【ネタ番外編】</b>だってあるんだぜ。本編も番外編も、サイトのメニュー《seven》にまとまってるから、是非読んでみてくれよな!」

譲 治「うん、それに本編や番外編への参加だけが参加じゃないんだよ。ストーリーを書くのが苦手な人だって、物語の感想、技や決め台詞、ストーリーアイディア、メイン舞台である遊園地のアトラクションやグッズやイベントのアイディア提供、リクエストなどでの参加も大歓迎だから、気軽に遊びにきてほしいな」

真里亞「うー…真里亞は文章よりお絵かきの方が得意…」

譲 治「もちろん<b>イラストでの参加も大歓迎</b>だよ。イラストがあると華やかだし、盛り上がるからね~」

朱志香「それに、サイトに投稿されたイラストは物語の挿絵に使用してもOKなんだぜ。つまり! 絵師さんと文士さんのコラボレーション! 素敵だろ?」

真里亞「うん! 素敵素敵! 真里亞描く! 真里亞の活躍シーン描くー!」

譲 治「その意気だよ、真里亞ちゃん。すでに投下されたお話のシーンのイラストを描くのもいいし、イラストに少し文章をつけて本編としてもいいんだ。クライマックスシーン+イラスト、という感じでね」

戦 人「よっしゃ真里亞! それじゃ、お前のイラストに俺が文章つけてやるよ!」

真里亞「<b>いらない</b>」

戦 人「(泣)」

朱志香「(笑)…あ、そうそう。あと、<b>オリジナルスクリプトでの参加も可能</b>なんだぜ。詳しくはググってほしいけど、ゲームの素材やデータを拝借して作る二次創作作品のことを言うんだ」

戦 人「へぇ…二次創作にも色々あるんだな」

譲 治「ま、要するに誰でも参加できるよってことなんだけどね。どう? 戦人くん、真里亞ちゃん」

戦 人「おう!俄然やる気になってきたぜぇ! 俺はやっぱり本編を書いてみてえな。具体的に参加する方法を教えてくれよ!」

譲 治「うん。まず、一定話数物語が進んだら、その先のお話の募集がかかるんだ。その<b>募集期間内に立候補</b>すればいいんだよ。立候補の際にはサイトメニューの《about》の基本ページから【進行予定表】を確認してみてね」

朱志香「で、立候補するぜ!って決めたら、<b>BBSに立候補する旨</b>書き込んでくれればいいんだ。その際は話を割り振る関係で、<b>希望話数は必須</b>。内容については立候補の時点で決まっていたら、かな。他の人の展開にもよるだろうし、後日まとまった時点で公開してくれても構わないぜ」

譲 治「そうだね。担当者が決定したら、<b>順番に一人がBBSの《本編投稿用》のスレッドに1つの記事を使って1話ずつ作成。</b>一つの話が完成したら、次の話へ移行する…という流れだよ。詳しくはサイトメニューの《rule》を見てみてね」

真里亞「イラストやオリスクや番外編の投稿はいつでもいいの?」

朱志香「おう。<b>本編以外のものについては常時募集中</b>だぜ! ちなみに、セブン含め特撮モノ全般の作品、セブン企画が本格始動する前の支援企画の結果発表などについてはメニューの《other》の【うみねこセブン 保管基地】 、セブン企画内の本編や企画に関わる全てのリンクがまとめて載っているのが《about》 だぜ 」

譲 治「そうだね。セブン企画に興味を持ってくれたなら、ひとまず《about》に飛んでみてくれれば、大体のことはわかるよ」

朱志香「連絡事や本編最新話がUPされたときには、《top》や《seven》の更新履歴や現在進行状況が更新されるから、要チェックだぜ!」

真里亞「要チェックだぜー! うー♪」

戦 人「しかしなぁ…ここまでノリ気になっといてナンだけど、途中からいきなり参加するのは勇気が要るっつうか、何書いていいかわかんねえっつうか……早くみんなでワイワイしたいけど、まだ作品もできてないしよぉ……」

真里亞「…………戦人、そんなに繊細だったっけ?」

戦 人「うるせえよ(涙)」

朱志香「ゴ、ゴホン! まぁとにかく、そういうときにはいいモンがあるから、心配すんなって」



<b>◆うみねこセブンアンケート◆
http://uminekoseven.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=7089275</b>



譲 治「このアンケートに回答するだけで、今日から君もうみねこセブンスタッフさ!(キラッ☆)」

真里亞「『真里亞がセクシー美少女で、敵をバッタバッタと無双でなぎ倒す話が読みたいです。』…と、完璧だね。きひひひひひひ………あ痛」

戦 人「よく読め、真里亞。上手く話に絡められればって書いてあんだろ。『戦人がボインなねーちゃんに囲まれるハーレム話が読みたいです。』…と。コレなら全然違和感なく……ぐぼぉおおッ!!」

朱志香「…さて、と。そろそろ締めようぜ、譲治兄さん(にっこり)」

譲 治「そうだね。…あれ、どうしたんだい戦人くん? 何だか違和感のある顔だけど(にっこり)」

戦 人「……なんれもないれふ(ぐったり)」

真里亞「きひひひひひ♪ 戦人、そんなボコボコのイイ顔じゃレッド降板されちゃうよ?」

戦 人「うっせえ困る!(涙)おし、真面目に締めるぞ。朱志香!」

朱志香「おう! そういうわけで、【六軒島戦隊 うみねこセブン】を一緒に盛り上げてくれる参加者を大大大募集中だぜ! どんな展開になるか、どんなEDになるかも参加者次第!」

譲 治「みんなで、うみねこ世界の新たなカケラを紡いでみないかい? きっと楽しいよ」

戦 人「だな! 俺みたいに興味を持ったやつはいつでもウェルカム! 歓迎するぜ。…うし、真里亞!」

真里亞「うー! せーのっ」


<font size=5><b>4 人「「「「みなさんのご参加、お待ちしています!!」」」」</b></font>



Re: 番外編 - 祐貴

2012/02/12 (Sun) 23:00:57

こんばんは。祐貴です。

アルブレードさんの新作投下ですね。
拝見します。

■アルブレードさん
アルブレードさん、こんばんは^^
昨日は皆集のチャット会お疲れ様でした。

チャット会終わったら寝てしまったので、気づかなかったのですが、昨日の内に投下して下さっていたんですね。
ありがとうございます。

> グレーテル物語のその後という形でミラージュのイメージでSS書いてみました。
単にミラージュのイメージSSではなく、グレーテル物語とのコラボにされたんですね。

> 温厚の皮を被った冷酷→神の一部なので人間も幻想存在も対等と思っていない&命に対する価値が違うという感じにしたので縁寿に対し「殺す」ではなく「壊す」という表現にしてみました。
確かに「壊す」という言い方は、人を人間扱いしていない感じですよね。
モノとしか見ていないというか。

その上で、まだヘンゼルの事を引きずっているグレーテルに、戦人の姿をした敵キャラを持ってくる……人の感情も理解している訳で、色々な面で強敵ですね。

> 後裕貴さんのが定番の悪役だったので、こっちは自分自身の存在に思うところのある一面を持っているという特撮として少々変化球的にしてみました。 
自分の思う通りに、幻想と人間を操りつつ、その自分に疑問を持っている……複雑なキャラですね。
何処か空虚な印象も感じました。
確かに特撮系の敵キャラとしては、珍しいタイプですね。
皆で共有する関係上、余り複雑過ぎると動かすのが難しい面があると思いますが、単純な敵役というのもつまらないですし、何か入れたいところですよね。
私のは、例のつもりでとにかく普通に無難にという感じですので……かっこいい黒幕をありがとうございます^^

> 本音としては縁寿とガチンコ勝負させたかったがそれをやると長くなるので断念……。
そうなんですね。ちょっと見てみたかった気がしますが……現時点で縁寿とガチでぶつかって、縁寿に勝ち目があるとは思えませんので、縁寿的には良かったのかもしれませんね。
黒幕が直接出て来るのは最後の方というのがお約束ですし。

黒幕SSありがとうございました!

Re: 番外編 - アルブレード

2012/02/11 (Sat) 20:43:29

             

 グレーテル物語のその後という形でミラージュのイメージでSS書いてみました。
 
 温厚の皮を被った冷酷→神の一部なので人間も幻想存在も対等と思っていない&命に対する価値が違うという感じにしたので縁寿に対し「殺す」ではなく「壊す」という表現にしてみました。
 後裕貴さんのが定番の悪役だったので、こっちは自分自身の存在に思うところのある一面を持っているという特撮として少々変化球的にしてみました。 
 本音としては縁寿とガチンコ勝負させたかったがそれをやると長くなるので断念……。
 

 

Re: 番外編 - アルブレード

2012/02/11 (Sat) 20:40:47


                世界を混沌へと還す者             

 「……我が名はミラージュ、世界を混沌へと還す者」
 ミラージュという名はいつ誰が名づけたのかは知らないがそれなりに気にいっている、そうでなければ千年もの間も名乗っていたりはしない。 そしてその名前を眼前に立つ蒼き戦士に名乗る。
 「……ミラージュ?……あんた、只者じゃないわね」
 戦士の声が少し震えているのは高層ビル屋上の冷たい風のせいではないだろう、ミラージュのタダなならぬ強さを肌で感じているからであり、そして相手の強さが分かるのも強さの内と考えればこの蒼い戦士も十分強いと言える。
 「私が送り込んだヘンゼルを討ち倒してみせたグレーテル、その実力を見せてもらうよ?」
 「……!!!?」
 ヘンゼルの名に蒼き戦士――グレーテルの顔色が変わる、そしてすぐにその瞳に怒りを携えミラージュを睨んだ。
 「あんたが……あんたが兄さんをっ!!!」
 「そうだ、生き返らせ救った。 そしてそれをお前が再び壊したというだけだ」
 「ふざけたことをっっっ!!!!」
 激昂し感情をむき出しのグレーテルに対しミラージュはさながら感情を持ち合わせていないかのように淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
 いや、実際に彼に人間と同等の感情というものはない。 人間でも幻想の者でもない古の神の一部がミラージュであり、その彼に人間と同等の感情があろうはずもない。
 「……私は真面目なのだけどね?」
 「とことんふざけた事をっ!! 【無限天使の双刃(インフィニットエンジェル・ツインブレード)】!!!!」
 グレーテルの両腕に白と金色の混じった光を放つ光刃が出現しと思うと彼女は間髪いれずに地を蹴り跳びかかって来る、怒りに任せた特攻に思えたがミラージュが反撃に放った【紅き楔】を回避してみせる程度には冷静な頭でいるようだった。
 「その黄金の光はベアトリーチェの力か……成程な、それでヘンゼルを倒せたか……」
 納得したように小さく呟くとパチンと指を鳴らすとミラージュの周囲の地面からドロドロとした銀色の液体が噴き出し、それが五つの三角錐状の物体になる。
 「……これは……?」
 「【魔導金属生命体エルス】……さあ、グレーテルを壊せっ!」
 エルスは再びドロドロになると今度はその形を人型へと変える、その姿にグレーテルは驚愕した顔で目を見開いた。
 「なっ……に、兄さん!?……どういうことよっ!?」
 銀色の身体をした右代宮戦人に表情はなくただ真っ直ぐにグレーテルを見ている。
 「ヘンゼル……いや、右代宮戦人を生き返らせた際に採取した彼の細胞の遺伝子データをエルスに取り込ませただけだ、こいつらエルスは他者を取り込むことでその姿だけでなく能力も吸収し自らを進化させていく……そういう人工生命体なのだよ」
 戦闘力も低く頭の悪い黒山羊、プログラムされた通りにしか動かないオートマタなどミラージュは手駒として信用出来ない、そのため独自に研究し開発したのがこのエルスである。
 「さあ行け、エルスよ」
 「……っ!!?」
 命令を受けエルス・バトラが攻撃を開始する、グレーテルは僅かに躊躇いをみせたもののすぐに反撃を開始し巧みなブレード裁きでエルス・バトラを斬り裂いていった。 【コア】とベアトリーチェの力で構成された【無限天使の双刃】は斬られたエルスは銀色の戦人の形から金属片となりボロボロと崩れていく。
 「ほう?」
 「次はあんたよ! こういうふざけた事をするあんたは絶対に許さないわっ!!!!」
 「……いいだろう……と言いたいが君にはまだ生かしておく価値はあるな」
 言葉と同時に新たに二体のエルスが出現する、それらの姿にグレーテルが驚いた声を上げる。 
 「こいつら……タイタスにスパロー!?……そっか、こっちの時間軸ではまだ生きてるのが当然ね、こいつらの遺伝子データまで取り込ませたのね!」
 「ちょっと違うな、彼らは直接取り込ませたのだよ。 実験としてね」
 「……なっ!?……あんた、こいつらの……ファントムの仲間じゃないの!?」
 グレーテルの言葉にミラージュは微笑を浮かべて返す。
 ミラージュにとってファントムなど目的達成のための道具に過ぎない、しかしぞんざいに扱えば自分に不信感を持たれやがては組織として崩れていくだろうから普段は仲間想いで温厚なリーダーを演じなくてはならないのがちょっとしたストレスである。
 今日こうして自ら出撃したのはそのストレス発散とエルスのテストのためというのもあった。
 「……さてな? では今日は失礼しよう」
 だが、それをいちいちグレーテルに説明する必要はない、巨体でパワーのあるタイタスと素早い動きで敵を翻弄するスパローであればグレーテルも手こずるだろう、その間にミラージュは転移魔法を使うと姿を消したのだった……。


 ミラージュが自らの私室に戻った時に意外な来客がいた。
 「……フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラか、何をしに来たのか?」
 「……グレーテルと一戦交え結局見逃したか、どういう気だ?」
 この観劇の魔女がこちらの動向はチェックしているという事はミラージュも承知しているが思っている以上に情報が早いなと思う。
 「ファントムと人間が憎みあい滅ぼし合うには双方が強大な力を持つのがいいのだよ」
 徒歩の人間同士で正面衝突してもせいぜい痛いと思う程度だが高速で走る大質量の電車同士が衝突したらどうか? 力があるもの同士がぶつかってこそ破壊は大規模になるのである。 
 人間側に強力な力を持つ者がいればファントムもそれに対抗し力を持とうとする、そしてさらに人間はファントムに対抗するのに力を求めるだろう、そうしていくことで彼の望みである世界を混沌に還すだけの大破壊を起こせるのである。
 「…………お主はいったい……?」
 その説明にフェザリーヌはぞっとしたような表情をした、この何事にも動じなさそうな大魔女がそういう顔をするというのは少し愉快だった。
 「私は自分がどこで生まれ、そして何者かを知らない、しかしやるべき事は知っていた……この人間と幻想が生きる世界を混沌の世界へと還す……それだけだ」
 ミラージュは別に己に目的があって世界を混沌にしたいわけではない、ただ自分がそうするために存在するからそうするのだという本能に近いものである。
 それは自分の中に何者かに仕組まれたプログラムがありそれに従っているだけという不快感もある、しかしそのプログラム通りに動けばやがては自分――ミラージュという存在がどこで何のために生まれたのかという答えに辿り着くのではないかという期待もあった。
 「ふふふふふふ……私は私の望むようにするだけ、それを君はただ観劇し楽しんでいればいいのだよ? 観劇の魔女フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラ? はっはっはっはっ!」
 

             

感想です - 祐貴

2012/01/21 (Sat) 04:55:50

こんばんは。祐貴です。

アルブレードさん、番外編投下ありがとうございます。
番外編らしい派手で楽しい話ですねw
スレッドの件は、本日のチャット会で相談という事で、ひとまずこのスレに感想書かせて頂きますね。

まさかセブン側ではなく、ファントム側に巨大ロボの話が出て来るとは……って、何故エヴァ様ww
さすが番外編、いきなり斜め上の展開ですね。巨大エヴァ様とは(笑)
(一番最初に反応したのは冷蔵庫のおやつプリンでしたがw なんかプリンって基本ですよね)

無茶振り対象がワルギリアというのが……なんていうからしいですよね。
熊沢さんの影響か、どうもかなり無茶な事をさらっと言うイメージがあるのは私だけではない筈。設計ミスの詰めの甘さも、お師匠様ならありな感じが(マテ
しかし「汎用魔女型決戦兵器エヴァトリーチェ初号機」って、突っ込み所満載なんですが(笑)。
大体魔女がロボってありなんだろうか……と既にセルフ突っ込みが入ってますが。
様々なフラグ満載で送り出されたエヴァ様……既に涙で前が見えませんね~w
まぁ、皆がフラグを立てずとも、エヴァ様がエヴァロボで出撃というだけで立派なフラグがだんと立っている訳ですが。

対するセブンも、巨大ロボを投入……ノリノリの金蔵……この時を待っていたんですね~。
巻き込まれるセブンの面々……なんか不安が(苦笑)
巨大ロボがどうこうではなく、ノリノリの金蔵というのがなんかフラグっぽいというか。
一番楽しいのは、ワルギリアと金蔵ですね。間違いなく。

不安を覚えつつ、順応しているエヴァ様が流石です。
いっぱい積み重ねている音が……って、なんか双璧の某ツインテ様が巻き込まれてますね^^;
……あ、またやられた。
いよいよ登場のセブンロボ……男のロマンですか。なるほど^^
年甲斐もなくはしゃぐ親世代が、なんか微笑ましいです。
かの方々、今度こっそりロボット持ち出して、飛び出したりしそうな気も。

エヴァ様の勝ち名乗り=フラグと同時に新たな能力発動。
色々秘密が隠されていそうな感じですね。
リミッター解除……承認って、アレですかっっ(笑)。
ネタてんこもりですね。ある程度わかるつもりですが、全部はわかっていないかも。

そして順当にセブン勝利w
冷蔵庫のプリンはやっぱり伏線でしたか……ベッドの上でプリンを食べるエヴァ様の姿が想像……出来ませんでした。
どう考えても、ワルギリアかシエスタ410に食べられていそうだ(笑)。

某祭具殿オチは鉄板ですねw
2人とも、頑張れ。

久々の番外編楽しませて頂きました。
ありがとうございます。

Re: 番外編 - アルブレード

2012/01/18 (Wed) 22:43:44


                うみねこセブン番外編 
 
             巨大ロボ対決!? エヴァトリーチェ大地に立つ……?
              


 現在ファントムは危機的状況に陥っていた。
 それは数多くの失敗を繰り返し主力部隊とも言える煉獄の七姉妹を失ってしまい、これ以上の失敗をし本国の信頼を失う事は許されない、そんな状況だった。
 「……それは分かるけど……?」
 地下に建造された広い空間、エヴァ・ベアトリーチェがそこへ連れてこられたのはおやつに冷蔵庫のプリンを食べようかどうしようかと迷っていた時だった。
 その通路でもあるキャットウォークをワルギリアの後ろについて歩くエヴァはそういい首を傾げて見せた、あちこちから騒がしい音や声はするが必要最低限の明かりしかなくいったいこの場所がなんなのかすら分からない。
 「……ここです」
 その時ワルギリアが足を止める、そしてそれが合図かのようにエヴァ達の前方が強い照明で照らされた、そこにあったものにエヴァは目を見開いてしまう。
 「……はぁっ!?……顔?…ロボット…?……ってか、あたしぃっ!!?」
 目の前にあるのは自分にそっくりな、しかし十倍以上はある巨大な顔だった。 装甲のつなぎ目や無異質な瞳が見えることがその巨体がロボットであると教えている。
 「これは我らファントムの総力を結集し開発した切り札、汎用魔女型決戦兵器エヴァトリーチェ初号機です」
 「…………はぁ?」
 「これを操縦出来るのはエヴァ、貴女だけなのです」
 「……何で?」
 「……設計ミスでコクピットが狭く……操縦出来るのは貴女の様な小柄な魔女だけなのです」
 「………………帰っていい?」
 「駄目です!」
 いつの間にかエヴァの背後の通路では黒山羊部隊が通せんぼをするように立ち塞がっていた……。
 「……まぢ……?」
 こうしてエヴァは無理矢理にエヴァトリーチェ初号機の胸部にあるコクピットに乗せれたのだった、球状のコクピットの壁面が全天モニターになって360°すべての光景が映し出されている、そしてシート脇の二本の操縦桿をメインとして周囲にあるボタンやレバーで操作するというまるでどこぞのモビルスーツの様なコクピットだった。
 『……操縦マニュアルは読みましたね?』
 「……一応はね、それにしてもこのロボット本当に大丈夫なんでしょうね?」
 本来科学とは無縁な魔女が開発したロボットだけにエヴァには不安で仕方がなかったが通信用小型モニターに映るワルギリアはしれっと言う。
 『大丈夫ですよ、その機体は黒山羊の”あむろ”が基礎設計をし”ちぇーん”が整備しているんですから』
 「ちょっ……まじで大丈夫なんでしょうね!!?」
 『……エヴァ様!』
 その時ワルギリアの画像に割り込む形でシエスタ410と45から通信が入った。
 『とっておきのサラダを作っておきますにぇ!』
 『……お早いお帰りを……』
 「…………」
 言葉自体は何て事無いものだったがエヴァはそれに恐ろしく不吉な何かを感じた、まるでその言葉で送られたパイロットは二度と帰って来る事がなかったような……言うなれば死亡フラグだ。
 どこからかピンポ~ンという音がエヴァには聞こえたような気がしたのだった……。


 平和なものだとグレーテルは感じつつ紅茶を一口啜った。
 偶には一人でのんびりしたいという気まぐれから天草を置いて町をぶらぶらとしていたものだが、ふと見つけた『うみねこカフェ』なる喫茶店に入り午後のティータイムとしゃれこんでいた。
 「…………ん?」
 その時ズシンという振動を感じた、地震かとも思ったがすぐに違うと分かる。
 「……この振動は…大質量の何かが動いている……?」
 『……あ! お嬢! 大変ですぜっ!!』
 携帯電話を取り出したところでちょうど天草からコールがあった、通信ボタンを押すなり大慌てと言った風な天草の声が響く。
 「ちょっと、落ち着きなさいよ天草。 いったいどうしたっていうのよ?」
 『……そ、それが……その、でっかい…そう! でっかいエヴァがっ!!』
 「……はぁ?……でっかい…エヴァっ!?」


 巨大エヴァ型メカの出現によりすぐさま戦人達うみねこセブンに招集かかかる。
 「……まじかよ……」
 指令室のメインモニターに映し出された光景に唖然となるのは戦人だけではない、何しろ巨大なエヴァ・ベアトリーチェが街を蹂躙し迎撃に出た自衛隊のF‐15戦闘機の部隊も撃墜していくのである。
 「……イーグル――F‐15戦闘機の部隊は全滅ね、でもパイロット全員の脱出は確認したわ」
 この状況にあっても冷静なのは流石霧江といったところだ。
 「あんなもん相手じゃとても戦闘機じゃ無理だぜ……」
 「でも朱志香ちゃん、僕達だってあんなもの相手じゃ……」
 「そうですね譲治さん、相手が大きすぎます……」
 全長50メートルはあろうかという巨体はモニター越しであっても迫力を感じる紗音は茫然と言う。
 「……ファントムがあんなものを開発していたなんて……」
 紗音と共に元はファントムにいた嘉音だったがこんな巨大ロボットを建造していたという話は聞いた事がない、それ以前にファントムが科学の結晶ともいえるロボットという物を使うというのが想像出来ない。
 「……ふっふっふっふっふ……がっはっはっはっはっはっはぁぁああああああああっっっ!!!!」
 「「「「「「!?」」」」」」
 その時司令室に響いたむさくるしいおっさんの声は右代宮家当主にしてうみねこセブン司令でもある右代宮金蔵である、しかし腕を組みはしゃいだよう高笑いするその姿はただのむさくるしいおっさんでしかない。
 「安心しろお前達! こんな事もあろうかと開発していた切り札があるわい!! そうこんな事もあろうかとな! すぐに地下格納庫へ行くのだ孫達よ、こんな事もあろうかと用意していたシーキャット07に搭乗し戦うのだぁっ!!!!」
 「「「「「「……さ、三回言ったっっっ!!!!!」」」」」」
 金蔵の傍らに控える源次は無言であったが、”よほど、こんな事もあろうかとと言いたかったのですね”とその顔が語っている
 「……訓練もなしにいきなりシーキャット07を使う……?」
 「……う~?」
 金蔵の発言に対し一人だけ驚いたポイントが違うグレーテルの呟きに気が付いた真里亞は怪訝な顔でグレーテルの顔を見上げたが彼女はそれ以上は何も言わなかった。
    

 「きゃっはっはっはっはっは~~~~~!!!! 結構イケるじゃないこのロボット、見ないさいよ人がゴミの様よ~~~~~~~☆ うふふふふ、このエヴァトリーチェ初号機が量産の暁には連邦なんてあっと言う間に叩いてみせるわ~~~~☆」
 自分しかいないコクピットで誰に言っているか、そして連邦とはなんぞや?という疑問はあるがとにかくハイテンションなエヴァの笑い声が響く。
 モニターにはエヴァトリーチェに目から発射される【ツイン・エヴァビーム】によって破壊された街が映る、自分の指が操縦桿のトリガーを引く度に街の建物が面白い様に吹き飛んでいく様は彼女を愉快にした。
 「……でも、こんだけ壊して死者がいないってどゆこと?」
 ふと浮かんだ疑問を口にしながら発射した【ツイン・エヴァビーム】が高層ビルの屋上を狙撃しそこにいた双眼鏡でこちらを覗き見ていたであろう蒼いツインテールの少女ごと吹き飛ばす。
 その直後にふとメインモニターにざらつきが生じた。
 『エヴァ、言い忘れてましたがその機体の目はビーム砲とメインカメラの両方を備えていますのでビームを撃ち過ぎるとメインカメラに障害があるらしいと”あむろ”が言ってましたよ』
 「何じゃいそりゃっ!?……ってか、それ明らかに設計ミスじゃないのっ!!?」
 狙ったかのようなタイミングで通信を入れていたワルギリアに怒鳴るエヴァ、同時にとてつもない不安を覚える。 コクピットのスペースにビーム砲の欠陥と続くと何かまだ設計上のミスがあると疑うのはエヴァだけではないだろう。
 『何しろ二機目とはいえ試作機に入る機体ですからねぇ……』
 「……ん?…二機目?」
 『ええ、一機目のエヴァトリーチェ零号機は起動実験中に暴走し大破しました……そして”れい”が殉職……』
 「んな危険なもんならあんたが乗れやぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!」
 さらに文句を続けようとしたが不意に響いた警告音にはっとなる。
 「……何?……レーダーに反応?……敵…!?」


 瓦礫の山と化した建物、その中の一か所がガサガサと動いたと思ったらその下からぶわっ!と声を上げ謎の蒼いツインテールの少女が顔を出した。
 「……ぐ…ぐは……も、もうちょっとで死ぬところでした…わ……」
 ある人物の命令でファントムの作戦を監視していたのだが、そこへ急な攻撃である。
 「……ん?……って、ぎょぇぇぇええええええええっっっ!!!?」
 彼女の周囲に影が差し暗くなったと思った次の瞬間に上空から落下してきた巨大な白い何かの脚に踏まれ謎のツインテール少女は再びその姿を消した……。


 「シーキャット07参上!!!!」
 「……あれ?」
 七人乗りのコクピットでレッドが勢いよく叫ぶと同時にホワイトが奇妙な声を上げる、気になったグリーンがその理由を聞いてみた。
 「……いえ、センサーに人の反応があった気が……?」
 「気のせいだろ? 祖父様の素早い対応で住民とかみんな速攻で避難したはずだぜ?」
 気にするなと言わんばかりにイエローが言う。
 「そんな事は後よ! 今は目の前に敵がいるのよ!!」
 そしてブルーにもそう言われればまだ気にはなっても頭を切り替えるホワイト、素早く各種計器をチェックしていく。
 「……OSプログラムは正常に稼働……しかし……」
 「ええ、戦闘パターンのプログラムの入力が完全じゃないわ! 戦闘可能なのはレッドのメイン操縦『剣撃モード』だけ、それジェネレーター出力も約70%よ!!」
 「分かってるってブルー! 俺がこの【超神剣クリムゾン・ブレイカー】であのエヴァをスクラップにしてやるぜ!!! く~~やっぱ戦隊ったら巨大ロボもないとなぁぁああああああっ!!!!」
 白を基調とし赤と青に塗られたその機体に持たせた剣を掲げさせレッドは叫ぶ、男の子ならば誰でも憧れる巨大ロボットのパイロットになった事ではしゃいでいるのは明らかだった。
 「う~~~! 何だかレッドのテンション高い~~?」
 「あはははは……仕方ないよピンク、僕も少し……ね」
 「そんなものですか……」
 男子の中では一人冷静なブラック、発進の前に彼らの親――正確には蔵臼と留弗夫と秀吉が俺達に操縦させろ~~と大騒ぎになったのを思い出す。
 「しゃあねえよ! ロボットに乗るのは男のロマンだからな!」
 ブルーはそんな風にはしゃぐレッドを子供っぽいと思いながらも、そのおかげでレッドが乗り物恐怖症を忘れているように見えて今はこれでいいだろうと思う。
 「そんなのどうでもいいから! さっさとあのでっかいエヴァを倒すわよ!!」
 「分かってるってブルー!」
 返事と同時にフットペダルを踏み込みながら操縦桿を操作するレッド、それに反応しシーキャット07の機体がゆっくりと、しかしすぐに加速し前進を開始した。 数十トンはあろうかという機体が一歩踏み込むたびにズシンズシンと地面が揺れる。
 「うおりゃぁぁぁああああああああああっっっ!!!!!」
 巨大なエヴァ――エヴァトリーチェ初号機へ一気に間合いを詰めたシーキャット07が【クリムゾン・ブレイカー】を振り降ろすがエヴァトリーチェもそれをケーンで受け止めると言う事をしてみせた。
 「……っ!…押しきれないか!?……ぐっ!?」
 一見華奢にも見えるエヴァトリーチェの機体の意外なパワーにレッドが驚いた直後にエヴァトリーチェがキック攻撃を放った、不意を突かれかわす事も防御も出来ずぬもろに腹に食らいシーキャットは後方に吹っ飛ぶ。
 「「「「「「「ぐあぁぁぁあああああああああっっっ!!!!?」」」」」」
 吹き飛び地面に激突した衝撃でコクピットが激しく揺れる、追撃をかけようとしたエヴァトリーチェだったがブルーが撃った頭部バルカンの攻撃を両腕でガードした。
 「……お前……」
 「いいからさっさと機体を立たせて! 頭部バルカンじゃあいつの装甲は撃ち抜けないわ!!」
 「……あ、ああ……」
 一発で戦車の装甲をも撃ち抜く二門のバルカン砲がバババババ!という音を響かせて頭部バルカンを撃ち続けながらシーキャット07がよろよろと立ちあがり剣を構え直す。
 「ホワイト、ダメージは!?」
 「……え?……あ、はい…………各部に異常なし、装甲にも大したダメージはありません!」
 「頑丈なんだな、こいつ……」
 コクピットを襲った衝撃がすごかったため内心ひやりとしていたイエローは素直に感心した。
 『あーーテストテスト……そのロボットのパイロット、聞こえてるかしら?』
 「……通信だって!?」
 『その声はうみねこセブンの緑ね?……て、言うかやっぱりあんた達だったのね』
 突然の通信にぎょっとなったセブン達。
 「その声はエヴァ・ベアトリーチェか!?……つか、そのでっかいエヴァをエヴァ自身が操縦してるっていうのかよ!?」
 『そういう事よ……えっと…赤い奴ね、あんたらもなんかとんでもないロボットを持ちだしたみたいだけどさ、この汎用魔女型決戦兵器エヴァトリーチェ初号機でけちょんけちょんにしたあげるわよぉ~?』
 「エヴァトリーチェだかエヴァンゲリオンだか知らねえがな! てめえこそこのシーキャット07でスクラップにしてやらぁっ!!!!」
 元より敵であるが喧嘩を売られればもれなく買うのがレッドである、フットペダルを勢いよく踏み込み操縦桿を倒すとシーキャット07を吶喊させた。
 「たぁぁぁああああああああああああっ!!!!」
 間合いを詰め【超神剣クリムゾン・ブレイカー】を振り上げるがそこへ【ツイン・エヴァビーム】を撃ち込まれた。
 「……くっ!? だがっ!!!!」
 レッドはそれでも強引に特攻し【クリムゾン・ブレイカー】を振り降ろすがエヴァトリーチェは身軽な動きで後ろに跳ぶことでかわした。
 『きゃっはっはっはっは~~~~~♪』
 「ちっ!」
 「……ちょっ……無茶し過ぎだぜレッド!」
 「そうだよ、装甲が耐えられたかいいようなものの……」
 舌打ちするレッドにイエローとグリーンが抗議する、装甲を撃ち抜かれていたらコクピットの自分達も無事ではいなかっただろう。 
 「……ビームが命中した部分の装甲が過熱しています!」
 「あのビーム攻撃はそう何発も持たないわ、もう無茶な特攻はやめなさい!」
 ホワイトの報告からビームの威力を推測し頭に入っている装甲の強度や耐熱限度のデータと照らし合わせ警告するブルー、手足がふっとぶ程度ならまだいいが装甲を貫通しコクピットやジェネレーターを直撃されたらアウトである。
 『うふふふふふふ、ずいぶん頑丈な装甲みたいだけど……次はこれよっ!!!!』
 エヴァトリーチェがケーンを構えると同時に機体の全身が発光を始める、すると魔力計測のゲージが一気に上昇しピンクが驚きの声を上げた。
 「う~~~~!?……エヴァトリーチェから放出されてる魔力反応が数十倍に上がっているよっ!!」
 その間にも発光はその勢いを増し、そしてエヴァトリーチェの前面に奇妙な図形を浮き上がらせた。
 「う~~! あれはセフィロトの樹!?」
 「……まずいわ!! 回避行動を……」
 『遅いわぁっ!!! 【セフィロト・ブラスト】!!!!!」
 セフィロトの樹に描かれている十二の円すべてから一斉に【ツインエヴァ・ビーム】の数十倍の出力はありそうなビームが放たれシーキャット07に迫った、太陽の光よりも眩しい閃光が辺りを包みシーキャット07もそれに呑みこまれていった……。
 

 モニターで巨大エヴァロボとシーキャットの戦いを見守っていた親達はその光景に愕然となった、エヴァロボが放った破壊の光芒にシーキャットの機体は呑みこまれ消えていったのである。
 「……じぇ、朱志香ぁっ!!!?」
 「真里亞……真里亞っ!!!!」
 「譲治ぃぃぃいいいいいいいいっっっ!!!!!」
 三人の母親が悲痛な叫び声を上げ、父親達も叫びこそしないが悲痛な表情でモニターを凝視するしかなかった。
 「……ば……戦人……冗談だろ……?」
 「……は…反則やろ…あんな攻撃……!!」
 「……何と言う事だ……こんな…………」
 白い煙がもうもうと舞い上がり視界がまったく効かないためシーキャットの機体がどうなったのか肉眼では確認出来ない、だが司令官席に座る金蔵はまるでその煙の中が見えてるかの様に不敵に笑って見せた。
 「ふっ! 右代宮の……片翼の翼を持つ者に敗北はない、いや、敗北しようとも何度でも立ち上がるものよっ!!!!」
 その金蔵に答えるかの様に必死でセンサーをチェックしていた霧江が声を上げる。
 「これは……識別反応あり! シーキャット07は健在よっ!!!!」


 勝利を確信し勝ち誇った笑いをコクピットに響かせたエヴァだったがだんだんと晴れてきた白い煙の中に小さな二つの光を見つけた、そしてそれがシーキャット07の両目だと分かりぎょっとなる。
 「……ちょっ……【セフィロト・ブラスト】に耐えた……そんな……!?」
 シーキャットの周囲を光の壁が覆っている事に気がつくエヴァ、魔女である彼女にはその光が魔法による【シールド】だとすぐに分かる。
 「あの力は……あの白い女の力……?……でもあんな巨大な機体を包むだけのパワーがあるはずはないっ!?」
 コクピットで驚いたのはエヴァだけではない、【シールド】を張ったホワイト自身もまた自分のした事に驚いていた。
 「……これは……?」 
 何かをしようと意識する暇はなかった、反射的に、あるいは本能的に仲間達を守ろうとコクピットだけでも【シールド】で守ろうとしたかもしれない。 しかしシーキャットの巨体を包むだけの【シールド】をホワイトに張れる力はないのは彼女自身が良く分かっている。
 「……シーキャット07にも【シールド】が装備されていた……?」
 「で、でも……そんな武装はマニュアルには……」
 グリーンに答えながら再度チェックするブラックは小型モニターに信じられないものを見た、出撃前にはなかったはずのシールド展開機能が追加されていたのだ。
 (……どうやっても作動しなかったシーキャットの【シールド】展開が作動した……ホワイトの力と共鳴した……?) 
 シーキャットの設計図には確かにシールド機能は組み込まれていたが、ブルー達がどう機体をいじろうともその機能はこれまで作動しなかった。
(【シールド】の能力を有する者と機体とのリンクで作動する仕掛け?……まさか、この機体は……シーキャット07はこの紗音が乗る事を前提に設計されていた?)
 すぐにまさかと否定する、どっちにしても今がこれ以上考えても仕方ないしそんな暇もない。
 「う~~~? エヴァトリーチェの魔力反応が急激に下がってるよ!?」
 「パワーダウン!? チャンスよ!」
 叫ぶと同時にブルーが金蔵に通信を入れる。
 「司令、リミッターの解除を要求するわ!!」
 「……リミッター……?」
 『がっはっはっはっは~~~~!!! 待っておったぞぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!』
 グリーンの疑問はむさくるしいおっさんの声にかき消された、どうにもこうにも今回はやたらとノリノリなおっさん……もとい彼らの祖父にしてうみねこセブン司令の右代宮金蔵だと呆れる。
 「おい! リミッターってどういう事だよブルー!?」
 「シーキャットの【クリムゾン・ブレイカー】は強力過ぎるから普段はリミッターでパワーを抑えているのよ! それを今から解除するのよっ!!」
 『うむっ!!! そういう事だ!! ならば、【クリムゾンブレイカー】リミッター解除……承認んんんんんっ!!!!!』
  

「ちょっ……パワーダウンって……!!!?」
 計器の示すゲージが急激に下がりエヴァは焦っていた、出撃前に読んだマニュアルにはこんな事は書いてなかったはずだ。
 「……まさかこれも設計ミスなのぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!?」
 『……あ、言い忘れてましたが【セフィロト・ブラスト】を撃つといくつかの重要回路がショートするので撃たない方がいいですよ?」
 「撃った後で言うんじゃないわぁぁぁあああああああああああああああっっっ!!!!!」
 またしても狙ったかのようなタイミングで通信をしてくるワルギリアにヒステリックな叫びを上げながらもとにかくここは後退すべきだと判断し操縦桿を動かすが回路がショートしてるせいで先程までと比べて機体の反応も動きもおそろしく鈍っていた……と言うかほとんど機体が反応しない。
 「……うっ!?」
 更にモニターに映るシーキャットの剣が赤く発光するのが見えていよいよやばいと感じた、計器を見るまでもなく魔女たるエヴァにはその赤い光に強力な魔力を感じとれたからだ。
 とにかく必至で操縦桿をガチャガチャ動かす。
 「……動けエヴァトリーチェっ! 何故動かんっっっ!!!!?」
 【クリムゾンブレイカー】を上段に構えたままダッシュするシーキャット07の動きは光速のごときスピードでエヴァトリーチェに迫り、そしてその赤き刃が一気に振り降ろされようとしていた。

 
 『受けれみろエヴァっ!!!! これが必殺の【超神剣クリムゾンブレイカー】ぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!!!』

 
 「……ちょっ……タンマ! ちょっとタンマ~~~~~~~!!!!!?」
 そのセブンの叫びは通信なのか外部マイクによるものかはエヴァには分からなかった、分かっているのは自分の絶叫がエヴァトリーチェの機体ごと赤き刃に断ち切られたと言う事だけだった、薄れゆく意識の中でエヴァは……。

 『ああ……こんな事なら冷蔵庫のプリン、食べておけばよかった……』

頭の片隅でのそんな思考と、そしてエヴァの存在もまたコクピットごと赤い光に飲み込まれ消えていったのだった……。

 
 【クリムゾン・ブレイカー】で両断されたエヴァトリーチェの機体が赤い閃光と化し轟音とともに消えていく……。
 「……やった……?…やったぜっ!!!」
 その光景に茫然となったもののすぎにレッドの歓喜の声がコクピットに響いた、そしてそれを合図に他のメンバーも自分達の勝利を確信し喜び合った。
 こうしてエヴァは倒され、人間界にはひとまずの平和が戻ったのであった。




 「いやあ、エヴァトリーチェが破壊された時はどうなるかと思いましたが、あなたが無事で良かったですよ」
 「ふぉほは、ふひはぁぁあああああああああっっっ!!!!!(どこが無事かぁぁあああああああっっっ!!!)」
 ワルギリアが笑いながら見下ろすベッドの上には包帯で全身をぐるぐる巻きされミイラ女と化したエヴァ・ベアトリーチェだった、【クリムゾンブレイカー】で機体ごと両断されたと思われたエヴァだったがどういうわけか奇跡の生還を果たしたのであった。
 「ぷっくっくっくっ! 世の中にはローエングリーンの直撃でガンダムの機体ごと蒸発したはずのパイロットが生還したという事もありますからね?」
 「ふぃれふぁんふぇふぇふひみふぉんふぉはぁは!!?(それ何てエンディミオンの鷹!!?)」
 「うが~~~!!」というエヴァの叫ぶ声がファントム本部の医務室に響く、こうして今回の巨大ロボット騒動は幕を引くのであった……。  



 ……と思いきやまだ終わりではなかった。


 「……私の与えた任務をほったらかしておねんねしていたなんていけない子ねぇ~~~★」
 「あぎゃぁぁぁああああああっっっ!!!? ど、どうかお許しを……わ、我がある……じぃぃぃいいいいいいいいっっっ!!!!!」
 その頃、某所にある祭具殿ではそんな声が響いていましたとさ……

Re: 番外編 - アルブレード

2012/01/18 (Wed) 22:42:21


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